メフラシュ攻防戦・後編
斥候を瞬時に倒したローランは、数百のゴブリンを前に聖剣デュランダルを構え直す。
「
ローランが魔法術式を唱える。
その瞬間、聖剣デュランダルが真っ赤な光を放つ。
漆黒の聖剣は、剣身が紅蓮の炎に包まれた。
燃え上がる聖剣を一振りする。その瞬間、剣から火炎の矢が打ち出された。
矢の一つ一つがゴーレムを的確に射抜き、その身体を一瞬にして焼き尽くす。
超高温に晒されたゴーレムの身体は、まるで溶けていく氷のように形が崩れて消滅する。
全てを焼き払う“炎の剣”。それこそがデュランダルの本来の力だった。
「僕も負けないよ! オートクレール、僕に力を貸してくれ。
オリヴィエが魔法の詠唱を唱える。
オートクレールはオリヴィエの意思に応え、青白い光を発した。
そしてオリヴィエがオートクレールを横一線に振ると、その斬撃が凍って飛び出した。それは氷の津波のようであり、押し寄せるゴーレムの大軍を呑み込むと一瞬で凍らせてしまった。
炎と氷の見事な連携は、ゴーレムの大軍を次々と薙ぎ払い、あっという間にその大部分を壊滅させた。
しかし、意思を持たない岩石の人形であるゴーレムは、二人の圧倒的な戦闘能力を目にしても臆する事はなく、与えられた命令に従って前へ進む。
目の前の脅威を排除するために。
死を恐れない兵士。
それは確かに強力な武器ではあったが、思考回路自体は単純、いや、正確には思考と言える思考はできない性能しか持たない事は、ヴェルサイユ国防軍によっては有利に働いた。
「今だ! 敵の数は激減し、陣形は乱れている! 突撃しろ!!」
ルフェーヴル将軍が攻撃命令を下す。
一万の兵士が一斉に声を上げて雪崩のように前進する。
ローランとオリヴィエの戦いぶりを見て、尻に火が付いたというところだろう。
ルフェーヴル将軍に率いられた第七軍団は、ローランとオリヴィエが切り開いた突破口を一気に押し広げていく。
しかし、当のローランとオリヴィエは一旦後方に下がって地べたに座り込み、荒い息をしている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、せ、聖遺物の扱いが、こんなに魔力を消費するなんて思わなかったよ」
苦しそうに息をしながら言うオリヴィエ。
同じく肩で荒い息をしているローランもそれに同意した。
「まったくだぜ。ブラダマンテさんはよくこんなのを平気で使ってたもんだな」
「本当にね。やっぱり
オリヴィエは改めて
創聖神ステラが最高司祭パトリアルケータに残したと伝わる聖遺物。
それは神の力そのものが内包された宝物であり、本来は人の手には余る代物。
だからこそ最高司祭パトリアルケータは、選りすぐりの騎士にしか聖遺物を託さなかったのだ。
「……何だか自信を無くしそうになるな」
聖遺物を手にしての初の実戦を経験したオリヴィエはやや不安そうな顔を浮かべる。
物心付く前から剣を握り、剣を振るって生きてきたオリヴィエは、いくら聖遺物だろうと剣の扱いには自信があった。
その自信がへし折られる音を聞いた気がしたのだろう。
しかし、ローランは違った。
「帰ったら、もっともっと修行して早くこの聖遺物を自分の物にしないとな。な! オリヴィエ!」
ローランは前向きに、より高みを見据えていた。
「……う、うん。そうだね」
やっぱり、ローランはすごいな。
そうオリヴィエは心底思った。
「それより俺達もそろそろ行くぞ! 第七軍団の連中にだけ戦わせていくわけにはいかないからな」
「わ、分かった。じゃあ行こうか」
「よし、行くぞ!」
「うん!」
ローランとオリヴィエは第七軍団と合流して戦線に復帰した。
しかし、先ほどのように聖剣の力を解放する事はせずに、純粋に騎士として剣を振るって戦った。
それからしばらくしてゴーレムの防衛戦を突破。都市メフラシュはヴェルサイユ国防軍の手によって陥落した。
これによりゴーレムギルドの根拠地は潰され、反ヴェルサイユ同盟は重要な戦力の供給源を絶たれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます