メフラシュ攻防戦・前編

 工業都市メフラシュ。

 それはゴーレムギルドが根拠地としている都市で、反ヴェルサイユ同盟の中核を担う都市の一つである。


 しかし、その都市の周りはリュミエールのように城壁に覆われていたりはせず、一見無防備にも見える。

 だが実際には数千というゴーレムが町の周りを警備しており、強いて言えばゴーレム部隊による堅牢な防御陣に二十四時間守られていると言えた。


 ローランとオリヴィエが率いるヴェルサイユ国防軍第七軍団は、町の南側にある開けた草原に軍勢を集結させている。


「都市攻略戦は、魔導飛行船による空爆が最も効果的かつ簡単と言えるでしょう。しかしメフラシュの町には民間人も多く、人道的に考えて魔導飛行船の活用はお薦めできません」

 そう話すのは第七軍団長ジョゼフ・ド・ルフェーヴル。


 五十歳手前と、ローランとオリヴィエとは親子並に年の離れているが、彼は特に気にする事はなく職務に忠実だった。


「こちらの兵力はおよそ一万。対して敵の兵力はゴーレムが推定二万です。現在、こちらが把握できている敵戦力は、」


 青空の下に設けられた陣地の中央で地図を広げてルフェーヴル将軍は敵味方の軍勢の配置を解説する。


「我が軍は敵のおよそ半分の兵力です。しかし、敵軍は町全体を守るために町を囲うように兵力を展開しています。ですのでこちらが兵力を一カ所に集中させて一点突破を図れば勝機はあるかと」


「よし! それなら俺とオリヴィエが先陣を努めて活路を開く! あんた達はそこを一気に攻めて敵陣を切り崩してくれ」


「お二人だけで先陣を務められるのですか!? 失礼ながら、それはあまりに無謀かと……」

 ローランの提案にルフェーヴルは動揺せずにはいられなかった。


「心配するな! 俺とオリヴィエは聖騎士パラダンなんだからな!」


「は、はぁ」


「な! オリヴィエも良いだろ」


「うん。問題無いよ。皇帝陛下から頂いた聖遺物の力も試してみたかったところだし」


「りょ、了解致しました」



 ◆◇◆◇◆



 数百を超えるゴーレムの軍勢を前に、ローランとオリヴィエは並んで対峙する。

 それを前にして、ローランは皇帝シャルルより賜った聖遺物の一つである聖剣デュランダルを、オリヴィエは聖剣オートクレールを鞘から抜いて構える。


 ローランの聖剣デュランダルは、黄金の柄に漆黒の刃を備えた剣。その真っ黒な見た目は聖剣というよりは魔剣だった。

 そんな外見からか、昔話にデュランダルが登場した際には“聖なる魔剣”という渾名が付けられたりもしている。


 対するオリヴィエの聖剣は、刃も柄も全てが純白のまるで美術品のように綺麗な剣だった。

 その美しさは、数ある聖遺物の中でも最高峰と言われている。


 まずは三体の斥候ゴーレムがローランに襲い掛かった。


 ローランはその素早い剣捌きで二体のゴーレムを斬り伏せた。

 その直後、残る一体のゴーレムが背後からローランに岩石の拳で殴り掛かる。


 それをローランは、無造作に伸ばした左手で受け止めた。

 掌に激しい衝撃が伝わるが、ローランの皮膚は裂ける事も無かった。


 ローランは全身を魔力の鎧で覆う防御魔法“魔法甲冑マジカルアーマー”の達人であり、その硬さはダイヤモンド並みと定評があった。

 掴んだ拳をローランはあっさりと握り潰し、砕け散った石片が地面に落ちるよりも速く、右手に握る聖剣デュランダルでゴーレムの身体を横一線に切り裂いた。


 その切れ味は岩石のゴーレムを一撃で真っ二つにしてしまうほどで、聖剣の名は伊達では無い事を証明している。

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