皇帝騎士団

 ヴェルサイユ共和国が解体されて新たにヴェルサイユ帝国が誕生した。

 それは時代の大きな転機となる。

 王政が打倒されて共和政が始まっており情勢は安定せず、大陸大戦まで起きるに至った事から、市民は強力な指導者を心の底で欲するようになっていた。


 そんな折、公安委員会を率いたロベスピエールが独裁制を初めて国内を纏め上げようとするも、彼は市民の期待を集める事はできなかった。

 なぜなら、市民の精神的支えであった聖導教会の総本山を壊滅させ、国母である最高司祭パトリアルケータの命を奪ったのだから。


 そのロベスピエールを打った教会騎士団団長シャルル・ド・ボナパルドの名声は最高峰に高まっていると言える。


 皇帝に即位してヴェルサイユの国権を得るなら、今は正に絶好のタイミングだろう。


 皇帝シャルルはすぐに自身の足場固めを始める。

 自分の指揮する教会騎士団は、“皇帝騎士団パラダン・ド・シャルルマーニュ”へと名を改めて再編成される事となった。


 ノートルダム大聖堂事変で多くの人員を失った教会騎士団の中でも選りすぐりの十二人で構成され、ヴェルサイユ国防軍の上位に置かれる。


 そして、ロベスピエール打倒に大きく貢献したローランとオリヴィエは、共にこの皇帝騎士団パラダン・ド・シャルルマーニュへと加えられる事となった。


「ありがとうございます! だんちょ、いえ、皇帝陛下!」


「君達の実力を思えば、当然の人事だよ。これまでよく働いてくれた。これからは、この新しい帝国のために尽くしてくれ」

 玉座に座るシャルルは二人の労を労う。

 玉座と言っても、リュミエール宮殿でかつて“玉座の間”と呼ばれた大広間に急遽用意した椅子なのだが。


 念願叶って聖騎士パラダンとなったローランは嬉しそうにしている。

 しかし、彼の隣に立つオリヴィエは不思議に思えてならなかった。


 これまでローランが聖騎士パラダンを目指していたのは、ロベスピエールへの復讐を果たすための力を得るため。

 だが、そのロベスピエールもいない今、ローランにとって聖騎士パラダンの地位は一体どういうものに見えているのか。そこがオリヴィエには理解しかねていた。


 いや、それどころか、ローランの生きる目的だった復讐も事実上終わったと言える。

 ローランはこれから一体何を目標に生きるつもりなのか。


 そんな事を考えながら、オリヴィエが隣に立つ親友にちょこちょこ視線を向けていると、それにまったく気付いていない様子のローランは、真剣な眼差しで皇帝シャルルに問う。

「ところで陛下、これから反ヴェルサイユ同盟への対処をどうなさるおつもりですか?」


「無論、すぐに対応するさ。国外の敵を倒さねば、市民の安全は確保できんからな。そのために今日、君達にはここへ来てもらったのだ」


「と、言いますと?」


「君達には一個軍団を率いて、ゴーレムギルドの根拠地である工業都市メフラシュの攻略に向かってもらう」


「ぼ、僕達が、ですか!?」

 オリヴィエは驚きのあまり声を上げる。


「そうだ。本来ならもっと経験を積んだ聖騎士パラダンを派遣したいところだが、彼等は皆、公安委員会に酷い拷問を受けて療養中だ。実力があり、尚且つ無傷な騎士は君等だけ。新たに誕生したこの帝国の力を内外に示すためにも、是非とも尽力してもらいたい」


「で、ですが、僕達にできるでしょうか?」

 ろくに兵士を指揮した経験も無いオリヴィエはやや不安を感じている様子だ。


 するとローランは、オリヴィエの肩に手を回して右手で彼の金髪をかき混ぜる。

「大丈夫だって。俺とオリヴィエが一緒なら何だってできるさ!」


「ちょ、ろ、ローラン、止めてよ~」


 皇帝を前にして、何とも緊張感の無い光景だが、シャルルは特に気にした素振りは見せなかった。


「案ずるな。聖騎士パラダンに就任した君等には、最高司祭猊下に成り代わって私からの餞別がある」


「せ、餞別?」


「聖遺物だ。その力、そしてヴェルサイユ国防軍の力を存分に敵に見せつけてくるのだ。良いな?」


「「仰せのままに、陛下ウイ,ヴォートル・マジェステ!」」

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