囚われの女騎士

「うぅ……」


 バステューユ監獄。

 旧王国時代より政治犯などの重罪人を収監するのに用いられてきたこの監獄の地下に設けられている拷問部屋。

 そこでは今、一人の女騎士が過酷な拷問を受けていた。


 バシッ!


 鞭が肉を打つ音が拷問部屋に響き渡る。


「うぐッ!」


 それに合わせて囚われている女騎士ブラダマンテ・ド・ヴァリエールが悲鳴を上げた。

 しかし、消耗し切った彼女の口から漏れる声は次第に小さく、弱々しいものになっていく。


 教会騎士団の聖騎士パラダンである彼女は、ノートルダム大聖堂事変の時、ノートルダム大聖堂にいた。

 しかし、罪も無い市民に刃を向ける事はできないとして、何の抵抗もせずに自ら虜囚の身となり、今はここで厳しい拷問を受けていた。


「さあ。聖騎士パラダンブラダマンテよ。教会騎士団がブルターニュ王国と裏で繋がっていたと自白せよ。そうすれば人思いにギロチンで全て終われるのだぞ」

 そう笑いながら言うのは、ロベスピエールの側近であるジュスト伯爵。

 彼は死の天使アルカンジュ・ド・モールの異名を体現しようとしているかのように、教会騎士達の拷問を取り仕切っていた。


「……何度も、言ったはず、です。私は、仲間を売ったりは……しない、と……」


 手足を鎖で繋がれ、衣服を剥ぎ取られて無惨な姿になりながらも、ブラダマンテの蒼い瞳はまだ折れてはいない。


「ふん! 強情な女だ。遅かれ早かれ貴様等教会の末路は既に決まっているのだ。これからロベスピエール公爵閣下が築かれる新政権の礎として、貴様等は滅びる。ならばせめて、ヴェルサイユのためにその身を差し出してこそ騎士の本懐というものではないのか?」


「罪無き民を守るためなら、喜んでこの身も差し出しましょう。ですが、あなた方の我欲を満たすのに利用されるのはお断りです」


「あれだけ拷問したのに、まだそんな口がたたけるのか。まあいい。まだ全ての騎士を捕らえたわけではないからな。全員が揃うまでの間、じっくりとここの拷問官どもに可愛がってもらえ。ふはははははッ!」



 ◆◇◆◇◆



 ジュストは一旦、バステューユ監獄を後にして公安委員会庁舎であるリュミエール宮殿へと移動した。

 ここはかつてヴェルサイユ王室が居城していた宮殿であり、ヴェルサイユの統治者の象徴とも言える建造物だ。


 現在はロベスピエールが公安委員会庁舎を設置している場所で、彼の支配欲が顕著に現れていると見る者は多い。


「と、このように、捕らえた教会騎士全員を拷問に掛けておりますが、一人も自白する気は無いようです。面目次第もございません」

 ジュストはロベスピエールに詫びの言葉を述べる。


「構わん。時間はたっぷりとある。じわじわと追い詰めれば良いさ」


「御意」


「しかし、最高司祭パトリアルケータと教会騎士団団長シャルル・ド・ボナパルドの遺体が見つかっていないというのはどういう事だ?」


「かなりの規模の火災でしたので。遺体のほとんどは骨すら残らぬ有様で、こちらにも火災に巻き込まれて多くの犠牲者が出ております」


「……奴等は必ず生きている! 何としても探し出せ! 人手に糸目は付けぬ! 動員できる限りの人数を捜索に動員せよ!!」


「しょ、承知しました! 直ちに!!」

 ジュストは慌ててその場を後にする。


「パトリアルケータとシャルルが火災如きで死ぬはずは無い。必ずどこかにいるはずなのだ。絶対に見つけ出して始末してくれるわ!」

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