教会騎士団弾劾
“ノートルダム大聖堂事変”と呼ばれる、公安警察による大聖堂への襲撃事件は、共和国全体に大きな衝撃を与えた。
教会を取り仕切る最高司祭パトリアルケータは、五百年の時を生きるヴェルサイユの国母であり、共和国市民からは
そんな聖導教会の総本山であるノートルダム大聖堂が襲撃を受けたのだ。
人々が動揺するのも当然である。
そこで襲撃の指示を出したロベスピエールは、自ら事実を報告すべくリュミエール中央広場にて街頭演説を行う。
「先のブルターニュ軍による首都攻撃は、聖導教会が密かに手引きして実行されていたという事が調査の結果分かりました」
ロベスピエールの発言に集まった市民は驚きの声を上げる。
「そ、そんなまさか!」
「あり得ないよ」
「教会がそんな事をするはずがない」
市民はロベスピエールの言葉を誰もがすぐには信じようとはしない。
「皆がそう思うのは当然だろう。だが、教会は既に皆が知っているものでは無くなっていたのだ! 最高司祭猊下の権威を背景に教会騎士団は勢力を拡大させ、教会を思いのままにしている! そしてその歪んだ野心は教会の枠に留まらず、我等の愛するヴェルサイユ共和国まで手に入れようと目論むに至っていた! 残った教会騎士を全て捕らえ、一人として逃してはならんッ!」
戒厳令の発令によって国権の全てを掌握しているロベスピエールの言葉を公然と批判できる者はもはやこの国にはいなかった。
共和国議会はもはや形式だけの存在と化し、諸侯等はただ黙って公安委員会の意向に従うしかない。
まだ捕らえていない教会騎士を捕まえるためという名目で、ロベスピエールは各所に公安警察を展開し、ヴェルサイユの主要施設及び幹線道路の全てを掌握している。
公安委員会による独裁体制の構築は既に実現したと言って良いだろう。
◆◇◆◇◆
首都リュミエールで大きな政変が起きていた頃。
ローランとオリヴィエの二人は団長シャルルの命令を実行すべくリュミエールを遠く離れた田舎の村へと訪れていた。
ブルターニュ軍の目撃情報がこの近くであり、その真偽を確かめ、もし事実ならこれを撃退する。
それが二人に与えられた任務だった。
しかし、もはや任務を実行している場合ではない。
その事を二人が知ったのは、ノートルダム大聖堂事変の翌日。
「どうする、ローラン?」
滞在先の宿でオリヴィエは不安そうな顔で問う。
「……今、リュミエールに戻るのは自殺行為だ。普通に考えればな。でも、これはチャンスでもある! これで俺達は堂々とロベスピエールの野郎を殺す事ができる!」
「で、でも、リュミエールはすっごく厳重に守りを固められているはずだよ」
「分かってるさ。でも、俺とオリヴィエなら何とかなるって!」
「ローラン……」
その自信は一体どこから来るのか。そう思うと溜息の一つも吐きたくなるが、その一方でどこまでも自分を信頼してくれるローランの気持ちが嬉しくもあったオリヴィエ。
「それに今や俺達だってお尋ね者だ。時間が経てば経つほどこの国に居場所なんて無くなるぞ。他の騎士達だってどうなったのか分からないんだからな。この村の連中も信用はできん」
「……そうだね」
こうして二人の決意は決まった。
ヴェルサイユ王国が崩壊してから六年という月日が流れ、遂に復讐を決行する日がやってきた。
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