新たな任務

 ローランは修練場で素振りをしていた。

 全身から汗が噴き出し、足下に汗の水溜まりができようとも一切その手を止めずに一心不乱に。


 貴族という肩書きを得て、更には聖騎士パラダンへの就任も決まった事から、ローランは今以上に己を磨き上げて実力を付ける事に余念が無かったのだ。


 ローランはもっともっと強くなりたいと思った。

 それは復讐のためだけではない。先の戦いでローランは己の未熟さを思い知った。親友を守れる力が欲しい。そう思ったのだ。


「ローラン、少し休憩をしたまえ。その調子では強くなる前に身体を壊すぞ」

 そう声を掛けたのは、教会騎士団団長シャルル・ボナパルドだった。


「だ、団長殿! し、失礼を、うわッ!」


 ローランは慌てて素振りの手を止めて頭を下げようとする。

 しかし、よほど慌てていたのか、それとも手足に疲労が溜まっていたのか、ローランは急に身体の力が抜けてその場に倒れ込む。


「おいおい、大丈夫かね?」


「は、はい。お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません……」


「構わんよ。将来有望な君が更に鍛錬を積んだらどうなるか、今から楽しみだ」


「きょ、恐縮です!」


「それはそうと、休憩ついでに少し良いかね?」


「は、はい。勿論です」


「と、その前に、まずはその汗をどうにかする方が先だな」

 シャルルが小さく笑う。


「え? うぅ。そうですね。あはは……」

 改めてローランは自分の身体に目をやると、その身体は汗でびっしょり濡れており、頭から水を被ったかのような有り様だった。


 それからローランは一旦、風呂場でシャワーを浴びて着替えた後、団長の執務室へと訪れた。


「失礼致します!」


 ローランは初めて教会騎士団団長の執務室へと足を踏み入れた。

 中は思いのほか簡素な作りであり、貴族らしい調度品などはあまり見られない。

 我欲を捨てて教会に尽くせという教義は、団長自らも率先して実践しているという事だろう。


「さて。君を呼んだのは、残念ながら悪い知らせを伝えるためでもある」


「わ、悪い知らせ、でありますか?」


「そうだ。君とオリヴィエの聖騎士パラダン就任だが、今すぐには難しくなるかもしれん」


「な、なぜですか!?」

 ローランは団長を前にして声を荒げる。


「君達は先日、ヴァンティミール公爵のご厚意で貴族に叙せられただろう。あの一件で恩賞は充分ではないかという意見が教会内部で出ているのだ」


「そ、そんな! ですが、聖騎士パラダンの任命権は最高司祭猊下にあるはずです! その最高司祭猊下がお認め下さったのに、」


「落ち着きたまえ。何も白紙にするというわけではない。少しの間、皆を説得する時間がもらうというだけだ。因みに私は君等の実力をそれなりに評価している。聖騎士パラダン就任に異論は無い。教義は勿論大切だが、こんな時勢だ。教会騎士団ももっと実力主義で行くべきだと私は考えているのだよ」


「団長……」


「私もできる限りの口添えはする。だから君はこれまで通り職務に励むのだ」


「は、はい! 分かりました!」


「そこでだ。教会騎士団団長として君とオリヴィエに任務を与える。それで実力を示せ!」


「はい! 任務、謹んで拝命致します!」


 任務の内容すら聞かぬままにローランは二つ返事で了承した。

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