教会騎士団団長
「報告します! 市街地に侵攻したゴーレム部隊は我が騎士団によってほぼ全てが殲滅!」
若い騎士の声が教会騎士団の陣に響き渡る。
次の瞬間、陣には拍手の音と喝采の声で包まれた。
しかし、ただ一人だけ拍手もせず、笑いもしない男の姿がある。
教会騎士団団長シャルル・ド・ボナパルド。
大柄の身体を白銀の鎧で覆い、青色のマントを背に纏った騎士。
四十代半ばくらいの外見をし、銀色の髪に髭を生やした彼は、団長として威厳と貫禄に満ちていた。
「浮かれるな。首都の南方上空では、今も魔導飛行船同士による艦隊戦が展開されている。油断はできん」
シャルルが危惧しているのは、リュミエールに大量のゴーレムを降下させたブルターニュ軍の魔導飛行船だった。
現在は、撤退しようとしているところをリュミエール南部上空にてヴェルサイユ軍の魔導飛行船七隻と交戦している。
魔導飛行船は兵士の攻撃の届かない空高くから敵領内に侵攻できる重要な兵器であり、これを何隻保有しているかで国の軍事力を計る事もある。
そんな敵軍の魔導飛行船が今、十隻も目の前にいるのだ。
これを全て撃沈する事が叶えば、戦争の終結が一気に近付くと言って良いだろう。
「リュミエールは多くの被害と犠牲を出した。せめてこの敵船団を葬り去らねば、この戦いは勝利とは言えん」
「しかし団長、我が騎士団には魔導飛行船がありません。現在戦闘中の首都防衛艦隊の健闘を祈るしか……」
ヴェルサイユ軍の魔導飛行船は七隻。対するブルターニュ軍の魔導飛行船は十隻。数的に劣勢であり、このままでは味方が多大な損害を被る危険すらあった。
敵の魔導飛行船を叩き潰すどころか味方の魔導飛行船が大損害を被るとなれば、この戦いはいくら敵の侵攻を押し返したと言っても、勝ちとは言い難い。
「私が出る」
団長シャルルは短く宣言した。
「え!? だ、団長自らが、ですか? ここの指揮はどうなさるのです?」
「市街地の戦闘は残敵掃討を残すのみだ。今いる騎士達で充分であろう」
「……承知致しました。どうかご武運を」
◆◇◆◇◆
シャルルは僅かな手勢を率いて陣を離れる。
向かった先は当然、魔導飛行船が戦闘を繰り広げているリュミエール南部の地。
その手に握るのは最高司祭パトリアルケータより賜った最強の聖剣ジョワユーズ。
「
シャルルが静かに呟く。
その瞬間、聖剣ジョワユーズは神々しい輝きを発する。
「焼き貫け!」
膨大な魔力が聖剣に収束し、一筋の閃光が地から天へと登る。
それは地から登る雷のようであったが、雷というにはあまりに真っ直ぐ伸びる柱のようであった。まるで天と地を繋ぐ柱。
その光景を見た者はそう思っただろう。
光の柱はブルターニュ軍の魔導飛行船の船底へと到達し、一瞬でその鋼鉄の装甲を超高温で熱して突き破る。
その勢いで魔導飛行船の船内を縦断して貫通。その直後、魔導飛行船は積んでいた弾薬に引火して大爆発を起こして轟沈するに至った。
「まずは一隻。だが……」
シャルルは聖剣ジョワユーズに目を向けると、小さく舌打ちをする。
「流石にこれまでの距離まで飛ばすと、剣の方がもたねえか。やっぱり連発は難しそうだ」
遙か上空で交戦中の敵船を打ち落とすために、最大出力で高圧縮された魔力の塊を放った聖剣は、超高温で熱せられて蒸気を発している。
「ですがお見事です。あの魔導飛行船をたったの一撃で沈められるとは」
「このくらいの芸当ができなければ、教会騎士団の団長は務まらんよ」
部下の言葉に、シャルルはそう軽口を言いながら笑う。
シャルルは一隻しか撃沈できなかった事を嘆くが、結果的にはそれで充分だった。
彼が葬った魔導飛行船は、ブルターニュ軍の艦隊陣形の中核を担う司令船で、艦隊の頭脳を失ったブルターニュ軍の魔導飛行船は統率を失い、やがてヴェルサイユ軍の魔導飛行船艦隊に駆逐されるのだった。
この戦闘で、ヴェルサイユ共和国は首都リュミエールに多くの損害と犠牲者を生む事になった。
だがしかし、魔導飛行船十隻全てを撃沈させられたブルターニュ軍の戦争継続能力は大きく損なわれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます