聖槍ロンゴミニアド
オリヴィエとシャルロットに向かって倒壊した建物の瓦礫が押し寄せる。
「吹き飛ばせ、ロンゴミニアド!」
瓦礫が落下する音の中をかき分けて、綺麗な女性の声が響き渡る。
次の瞬間、凄まじい勢いの旋風が吹き荒れて瓦礫を吹き飛ばした。
「大丈夫ですか、オリヴィエ!」
そう言って姿を現したのは聖槍ロンゴミニアドを手にしたブラダマンテだった。
「ブラダマンテさんッ!」
「この先に教会騎士団が陣を張っています。そこへ避難して下さい。ローランは一緒ではないのですか?」
いつも一緒に行動しているローランとオリヴィエ。そのどちらかが欠けているという事は、何かがあったのは間違いないと、ブラダマンテは直感で察する。
「そ、それが、」
オリヴィエが思い詰めたような顔で言葉を詰まらせると、代わりにシャルロットが説明をする。
「私達を逃がすために囮になったのだ!」
「な、何ですって! まったくローランは、いつもいつも無茶な事を……」
「頼む
「分かりました。騎士の名に懸けて。ですからあなた達はすぐに陣へ避難して下さい」
「分かった」
「ローランを宜しくお願いします!」
本当なら自分で助けに行きたい気持ちはあるが、ローランからシャルロットを守るように託された以上、自分が出しゃばるわけにはいかないとその気持ちをグッと堪える。
◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、はぁ! ……これで、さ、三十体。くそッ! 多過ぎだろ!」
たった一人で三十体ものゴーレムを破壊したローラン。
しかし、ゴーレムの数は減るどころか増えていた。
気付けば、四方を囲まれて逃げ場を完全に失っていたのだ。
流石に疲労と焦りが隠せなくなったローランを、背後から一体のゴーレムが襲う。
「くッ!」
ローランは迫り来るゴーレムを常人離れした素早い剣技で切り伏せる。
いつもであれば背中はオリヴィエが守ってくれていた。しかし今、オリヴィエはここにいない。
何をするにも一緒だった相棒がいない状態で、このまま戦い続ける事にローランは僅かながらに死を予感せずにはいられない。
「どうせ死ぬなら、オリヴィエの隣が良かったな。でもまあ、あいつを守れて死ぬなら、それも悪くねえか」
「騎士見習いの分際でそんな台詞は百年早いですよ」
ローランに迫る岩石の拳を一太刀で切り裂いたブラダマンテは、小さく笑みを浮かべながら言う。
「ぶ、ブラダマンテさん……」
絶体絶命の窮地を救われたローランは、腰を抜かしてその場に尻餅を突く。
「やれやれ。そんな事では騎士としてやっていけませんよ」
「あはは。すみません。……な! ブラダマンテさん、後ろ!」
ブラダマンテの背後から迫り来るゴーレムの拳。
しかし、慌てるローランに対してブラダマンテは落ち着いていた。
優雅な動作で身体を反転させる。
大きな木すら一撃でへし折るほどの威力を持つ打撃を、ブラダマンテは無造作に伸ばした左手で受け止めた。
ブラダマンテの左手は、凄まじい衝撃に襲われるが、骨が折れる事もなければ、その綺麗な白い掌に傷一つ付く事はなかった。
ゴーレムが更なる攻撃を始めるよりも速く、右手に握る聖槍でゴーレムの胴体を貫いた。
「
それは聖遺物が持つ本来の力を開放する魔法だった。
聖槍ロンゴミニアドは青白い光を発し、辺り一帯を吹き飛ばす暴風が吹き荒れる。
その槍が貫いているゴーレムは一瞬で木っ端微塵になり、周囲で暴れ回るゴーレムを次々と旋風で粉砕していく。
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