リュミエール奇襲作戦
町のあちこちでゴーレムが暴れる中、ローランとオリヴィエはシャルロットを連れて建物の物陰を利用しながら安全な場所を探して逃げ回っていた。
しかし、どこへ逃げてもゴーレムが暴れており、次第に逃げ場を失っていく。
今は破壊された建物の残骸に身を潜めているが、見つかるのは時間の問題だろう。
「……くそッ! 首都防衛部隊は何をやってるんだよ!」
ローランは声を荒げる。
彼等は知る由も無いが、首都防衛部隊の多くは首都の上空を飛ぶブルターニュの魔導飛行船によるリュミエール宮殿などの政府関係の施設への空襲を恐れて戦力の大部分を首都中心部に集結させており、町で暴れ回るゴーレム部隊の応戦はほとんど行なっていなかった。
「このままじゃあ、ここもヤバいぞ」
外の様子を伺いながらローランが呟いた。
「……」
ローランの言葉に不安を感じたのか、シャルロットはオリヴィエの服の袖を掴む。
オリヴィエは少しでもシャルロットを安心させようと彼女を自分の方へと抱き寄せて頭を優しく撫でる。
「ローラン! シャルロットを怯えさせるような言い方は止めてよね!」
「わ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「わ、私は怯えてなんていないぞ」
今にも泣きそうな顔で強がるシャルロット。
栄えある公爵家の令嬢としての矜持は、この絶体絶命の状況でも健在のようだ。尤も彼女の精神状態はその矜持によって辛うじて保たれていると言っても良いだろうが。
そんなシャルロットを見て、ローランはある決心を固める。
「オリヴィエ、シャルロットを連れて逃げてくれ。ゴーレムは俺が引きつける」
「え? む、無茶だよ! 囮なら僕がッ」
「いいや。オリヴィエの方がシャルロットを守りながら移動できるだろ。俺はそういうのが苦手だから」
そう言うとローランは、オリヴィエの話には一切耳を貸さずに物陰から飛び出した。
教会騎士団から支給された剣を鞘から抜き、手近にいたゴレームに斬りかかる。
本来、魔法で強化された岩で作られたゴーレムの身体は、生半可な剣では傷一つ付かない。
しかしローランは、騎士学院、そして教会騎士団で学んだ強化魔法で剣の切れ味と破壊力を底上げする事で、ゴーレムの堅い身体を一太刀で両断してみせた。
「行け! オリヴィエ!」
「ちょ、ローラン! 待っ、」
オリヴィエが言い終わる前にローランは駆け足でその場を後にしてしまう。
ブラダマンテの下で修行に励んできた成果もあり、その戦いぶりは凄まじかった。
次々とゴーレムを切り伏せ、敵の注意を引くという役目を見事に果たす。
元々ローランの戦い方は実戦に向いていた。
型通りの剣術を鍛えるのではなく、絶対に勝つという強い執念が織り成す剣技は意思を持たない岩人形のゴーレムを次々と粉砕していく。
そんなローランを尻目にオリヴィエは、シャルロットの手を引いて一気に走り出す。
「ローラン……」
親友が心配でならない様子だが、オリヴィエは振り返る事なく走り続けた。一瞬でもローランの戦う姿を目にしたら身体が勝手にローランの方へ向かってしまう気がしてならなかったから。
「お、おい。オリヴィエ、良いのか!?」
シャルロットは子供ながらもオリヴィエの心中を察したらしい。
「……僕等は見習いとはいえ騎士だ。民を守るためなら喜んで命を捨てる覚悟はいつでもできてるよ」
そう言って気丈に振る舞うオリヴィエ。しかしその表情には親友を案じている感情が滲み出ている。
「自分の命を捨てる覚悟はあっても、親友が危険な目に会う覚悟はできているのか?」
「ッ!!」
シャルロットの鋭い指摘にオリヴィエは思わず足を止めてしまう。
「オリヴィエとローランの仲の良さは今日一日、一緒にいてよく分かった」
「……僕はローランを信じるだけだ! さッ! 行くよ! 安全な所を見つけないと」
その時だった。
すぐ傍の建物が倒壊してオリヴィエとシャルロットの方へと押し寄せる。
「しまッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます