将来への不安

 ヴェルサイユ共和国初となる国軍の創設。

 これが議会で可決されると、ロベスピエールはすぐにも諸侯の騎士団を解体・再編して国防軍の創設に着手する。


 各騎士団は十三個の軍団へと再編成され、公安委員会の管轄下へと置かれる。

 この大事業は、当初は長い時間を掛けて行うものと誰もが予想していたが、事前に詳細な計画を立案していたジュスト伯爵の名采配によって迅速に進められた。


 しかし、それでもロベスピエールの手を逃れた騎士団が共和国内に一つだけあった。

 聖導教会の教会騎士団だ。


「本当にこれからどうなっちまうんだろうな」

 いつになく不安そうな声を漏らすローラン。


 そんな親友を隣に立つ親友は慣れた口調で諫める。

「ローラン、今は修行中なんだよ。余計は考えないで!」


「へいへい」


 ローランとオリヴィエは今は聖騎士パラダンブラダマンテ・ド・ヴァリエールの指示で重り付きの木剣を一万回素振りするという修行の真っ最中だった。


 共にその半分を迎えるために息も絶え絶えになり、汗だくになっている。

 上半身の衣服を脱ぎ捨てて、上半身を露わにして少しでも暑さを凌ごうとするが、修行で熱せられた二人の身体は、遥か頭上で輝く太陽からの熱も相まってどんどん熱さを増していた。


 それでも二人は素振りの手を止めはしない。

 形の悪い素振りをしてしまった際にはそれはカウントせずにやり直す誠実さまで見せて真面目に修行に励んでいる。


 しかし、時折ローランは隣で真面目に木剣を振るう親友の姿を見ると悪戯心からついからかいたくなり、ちょこちょこ声を掛けて集中力を乱そうとする。

「でもよぉ、オリヴィエ。国防軍なんてものができたら教会騎士団の立場が無くなって、俺達が武功を立てる場が無くなる可能性もあると思わないか?」


「……」

 ローランの話を真面目に聞いていてはきりが無い。そう判断したオリヴィエは無視という無情な策に出た。


「む~」

 オリヴィエの意図をすぐに察したローランは頬を膨らませて不満そうにする。

 しかし、そんな事をしていながらも、ローランの素振りは素早く鋭い。形も綺麗で、彼の集中力が少しも途切れていない事を物語っていた。


「だいたいローラン、僕はまだ騎士見習いなんだよ。教会騎士団が出兵する事になったとしても僕等が武功を立てる事なんてまずないと思うよ」


「そ、それはそうだけどよ。ちょっと不安にならないか?」


「え?」

 オリヴィエはここへ来て初めて素振りの形を崩してしまう。

 そして手を止めて一呼吸を置くと、ローランの方を見た。

「ローランが不安を感じるなんて珍しいね。一体どうしちゃったのさ?」

「な、何か失礼な物言いだな。まあそれは置いておくとして、俺達せっかく教会騎士団に入る事ができたのに、その教会騎士団が戦う機会を奪われたのかもしれないんだぜ」


「ローラン、僕等はまだ十三歳なんだよ。本来なら教会騎士団に身を置いているのだって速いくらいなんだ」


「そりゃな。そのくらいは分かってるよ」


「だったら、これも分かるだろ。僕等はここまで駆け足で来た。そろそろ速度を緩めてちょうど良いくらいなんだ。ローランはその気になれば何でも卒なくこなせるんだから、地道に頑張れば聖騎士パラダンにだってなれるよ」


「ほ、本当にそう思うか?」

 ローランも素振りの手を止めて問い掛ける。


「うん! 勿論だよ。第一、僕がローランに嘘をついた事があるかい?」


「い、いや。そりゃ勿論無いけど……」


「だったら僕の直感も信用してよね」


「オリヴィエ……。おう! オリヴィエに言われたら、何だが自信が出てきたぞ!!」


 ローランがいつものように自信を取り戻し、無邪気な笑みを浮かべる。

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