騎士見習い

 教会騎士団の歴史は古い。

 五百年前の大陸全土を巻き込んだガリア大戦の際に、聖導教会最高司祭パトリアルケータが当時弱小国だったヴェルサイユ王国を守るために創設した聖騎士団に起源を持つ。


 当初は十二人しかいなかった騎士団も今では百人を超す大所帯となっている。


 団長を含む高位騎士十二人は聖騎士パラダンと言い、最高司祭パトリアルケータより聖剣や聖槍といった国宝級の宝物とされる聖遺物を下賜される。


 今のところ、ローランとオリヴィエが目指すのはこの聖騎士パラダンという地位だった。


 聖騎士パラダンは、ヴェルサイユ共和国において最高位の武官であり、その権勢はそこ等の貴族など裕に超えている。


 奴隷上がりが地位と力を得ようとするなら、最も現実的な道と言える。

 とはいえ、それだけに聖騎士パラダンになりたいと志す者はこのヴェルサイユに何千何万とおり、容易くはいかないだろうが。


 それでもローランとオリヴィエは諦めない。

 必ず聖騎士パラダンとなって復讐に必要な力を手に入れてみせる。

 そう心に誓って。


 そしてローランとオリヴィエは初陣での戦功から教会騎士団の騎士見習いに抜擢され、二人の目標に向けて大きな一歩を踏み出す事ができたと言えるだろう。



 ◆◇◆◇◆



 ノートルダム大聖堂。

 首都リュミエール都心部に位置するこの大聖堂は、聖導教会の総本山であり、最高司祭パトリアルケータの宮殿でもある。


 荘厳な雰囲気に包まれた聖座の間。

 扉から玉座まで一直線に続く赤い絨毯の上を、小綺麗な正装に身を包んだローランとオリヴィエは並んで進む。


 その様を絨毯の両側に並んでいる貴族達が見物している。


 いくら実力主義の最高司祭の聖断とはいえ、教会騎士団に奴隷出身者を迎え入れるのは前代未聞の事であり、貴族達は物珍しそうに、そして害虫を見るような目で二人を見ていた。


「あれが噂の輩か」


「奴隷の出と言う割には良い顔立ちね」


「剣の腕じゃなくて、あっちの方で猊下に取り入ったんじゃないかしら」


「ふん。下賤な奴隷上がりめが。運だけで成り上がりおって」


「奴隷風情がこの神聖な絨毯の上を歩くなど、世も末だ」


 などと二人への評価は様々だが、少なくとも好意的に捉えている者は限りなく少なかった。

 そんな悪意に満ちた視線を一身に集めながらも、二人は臆する事は無くまっすぐ前を見て歩き続ける。


 ローランもオリヴィエもこの広間の空気に呑まれる事は無く堂々としていた。

 なぜなら、この世で最も信頼している相棒がすぐ隣にいるからだ。


 聖座の前まで辿り着くと、二人はそこで立ち止まり、ゆっくりと跪いてこうべを垂れる。ブラダマンテに教わった作法に従って整然と。


「さあ、面を上げなさい。ローラン、オリヴィエ」

 最高司祭パトリアルケータが告げる。

 その声は幼い少女のものだったが、どこか大人びた雰囲気を醸し出していた。


「「仰せのままに、猊下ウイ,ソン・エミネンス!」」

 ローランとオリヴィエが口を揃えて返事をして、ゆっくりと顔を上げる。

 見上げた先には、この大陸で最も権威あるヴェルサイユの国母パトリアルケータの姿があった。


「あなた達を初めて見たあの闘技場での一戦以来、私はこの日が来るのをずっと心待ちにしていましたよ」


「「恐れ入ります、猊下」」


「ヴェルサイユのためにその身を捧げ、教会の盾となり、教会の剣となる事を誓いますか?」


「「誓います。我が右手は教会の剣。我が左手は教会の盾。最高司祭猊下の恩ために、教会とヴェルサイユの繁栄のためにこのを捧げる事を」」


 事前に教わった口上を述べるローランとオリヴィエ。

 この瞬間を以って二人の身は教会騎士団の騎士見習いとなったのだ。

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