遭遇戦

 小隊全員の荷物を持たされてフィリップ達よりも少し後ろの方を歩いていたローランとオリヴィエは、奇しくもブルターニュ騎士の奇襲から逃れる事に成功した。

 重い荷物を即座に捨てて、深い草むらの中に身を隠す。


 息を殺し、気配を消して周囲と同化する。


 そうしていると、ブルターニュ騎士達が近くまでやって来た。

「斥候なんて面倒な仕事を押し付けられたと思ったが、雑魚を狩って武勲を立てられるなら楽なもんだぜ」


「まったくだな。ヴェルサイユも学生を動員せねばならんほど兵力が不足しているとは。この戦争も俺等の楽勝だぜ」


「無駄口叩いてないで、他に獲物がいないか探せ。向こうに投棄された荷物があった。少なくとも二人以上はまだこの近くにいるはずだ。必ず見つけ出せ!」


「ああ。分かったよ」


 会話の中から、彼等はブルターニュ軍の斥候で、補給線を断つために待ち伏せしていたわけではなく、単なる遭遇戦だったらしい。

 自分達の存在をヴェルサイユ軍によほど察知されたくないのか、目撃者は全て始末するつもりでもいるようだ。


「こいつはマズいな」

 ローランが呟く。

 敵が目撃者を残したくないと考えている以上、そう簡単には捜索を諦めたりはしないだろう。

 少なくとも自分達の存在には勘付かれているのだから。


「どうする?」


「……敵の正確な人数が分からない以上、下手に応戦するのは危険だ。だけど、このままじゃいずれ見つかる」


「なら」


「ああ! 行くぞ!」


「うん!」


 喧嘩っ早いところは二人の長所でもあり、短所でもあった。昔も今も。

 ローランがまだ王子でオリヴィエが騎士だった頃には、ガラの悪い貴族の子弟十人を相手に乱闘騒ぎを起こした事も今では良い思い出だ。

 たいていの場合、まずはローランが一人で突っ込み、後を追うようにオリヴィエが加勢するのがいつものパターンだったが、革命が起きる直前くらいには二人同時に飛び出す事も増えていた。


 それが騎士学院に在籍していたこの三年間は、よく自制していたものだと我ながら二人は感心していた。


 しかし今、二人はその自制心という枷から自らを解き放ち、草むらから勢いよく飛び出した。


「いたぞ!」


「こんなところにいやがったか!」


 近場にいた二人の騎士がすぐにローランとオリヴィエに気付いて大剣を構えようとする。


火炎弾ファイアーボール!」

 ローランの右手から球体状の炎の塊が生成されて射出された。

 火炎弾ファイアーボールは数ある火炎系魔法の中でも初歩的でローランは騎士学院の魔法学の講義の中でこれを習得していた。


 しかし、そんな魔法が経験豊富な騎士に通じるはずもない。


「け! ガキが舐めた真似を!」

 騎士は剣を振るってあっさりと火炎弾ファイアーボールを掻き消した。


 だが次の瞬間、オリヴィエが常人離れした動きで騎士達へと迫り、腰の鞘から剣を抜いて一撃で一人目の騎士を斬り伏せた。


「がはッ!」


 剣闘士として戦い続けた戦闘技術を忘れないように、真面目に日々の鍛錬を続けたオリヴィエの技量は、騎士学院での講義などで更に洗練されていた。

 本物の騎士にも劣らぬ見事な剣捌きで一人目を倒すと、すぐに態勢を立て直して二人目の騎士を一太刀の下に斬り伏せる。


「す、すげぇ」

 その見事な戦いぶりにローランはただ驚く事しかできなかった。


 しかし、当のオリヴィエは特に奢る様子も誇らし気にする様子もなく「ローランが魔法で敵の注意を引いてくれたおかげだよ」と答える。


 いつもであれば、ここからお互いに相手の健闘を称え合うところだが、今はそんな事をしている暇は無い。


 ローランとオリヴィエを探すために散っていた敵の騎士が異変に気付いて集まり出したのだ。


「行くよ、ローラン!!」


「おう!」


 いつも先に突っ走るのはローランだが、気付けばオリヴィエの方が前に出ているのもいつもの事だった。

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