初陣
ついに出兵の日は来た。
その日は快晴と、正に外出日和と言って良い。
ローランとオリヴィエの属するのは教会騎士団が急遽編成した“独立機動大隊”という部隊の第五小隊だった。
名前だけ聞くと、精強そうな印象を受けるが、その実態は学生のみで構成された補給物資等の荷物持ち部隊と言って差し支えは無かった。
第五小隊の隊長はフィリップ・ド・オルレアン。
成績ではなく家柄で指揮官を決めるのは、王政時代から続くヴェルサイユの悪習と言えるだろう。
「おい、ローラン、オリヴィエ、奴隷上がりのお前達に相応しい仕事があるぞ!」
隊長がまず最初下した命令は、本来全員がそれぞれ持つべきはずの荷物全てを二人に押し付ける事だった。
これまでの学生生活の中で、オリヴィエの生真面目で大人しい性格を知ったフィリップ等は、ローランだけでなくオリヴィエに対しても露骨な嫌がらせをするようになっていた。
「分かりました」
反論するだけ時間の無駄。経験則でそれを理解しているローランは二つ返事で了承した。
オリヴィエは不満のあるような鋭い視線を見せるも、それは自分に降りかかる理不尽に対してではなく、ローランに対する理不尽を怒っての視線だった。
なのでその当の本人が何も言わずに命令に従ったとあっては、オリヴィエにも異論は無い。
とはいえ、小隊全員分の荷物を二人だけ背負うのは流石に無理というものだ。
如何に体力に自信があるローランと言えども、すぐにバテてしまうのは目に見えている。
そこで止むを得ず、ローランは自身の身体に魔法をかけて身体能力を底上げしようと試みる。
「
一方、オリヴィエはローランよりも体力と腕力があるので、魔法による補助無しでも荷物を軽々と持ち上げた。
「ローラン、大丈夫かい? 少しならまだ持てるけど」
オリヴィエはいつも変わらず、自分の事よりもローランを気に掛ける。
「大丈夫だよ。このくらい」
「ローランは負けず嫌いだからな。ローランの大丈夫は当てにならないよ」
「ムッ! 俺だって無理な時は無理って言うぞ」
「本当にそうかな?」
こんな状況でも軽口を言い合って楽しそうに笑うローランとオリヴィエ。
「おい奴隷上がりども! 無駄口を叩くんじゃない! さっさと歩け!!」
フィリップが声を荒げる。
◆◇◆◇◆
ローランとオリヴィエが属する第五小隊の行軍ルートは、あまり整備の進んでいない荒れた道だった。
獣道ほどではないが、決して旅人に優しい道とは言えなかった。
そんな道をひたすら進み続けて第五小隊は最前線で防衛ラインを形成している本隊に補給物資を運んでいる。
小隊の皆が剣などの武装をしているのに対して、ローランとオリヴィエは剣だけでなく全員分の荷物も運んでいた。
身体に掛かる負荷は他の隊員を遥かに凌ぐだろう。
だが、フィリップはローランとオリヴィエには御構い無しに、行軍し続ける。
それでも二人は、一切弱音も文句も吐く事はせずに黙々と歩く。
そんな中、それは突然起こった。
第五小隊の前衛を担う三人の生徒が一瞬にして真っ二つになったのだ。
それは正に文字通りであり、下半身は糸の切れた人形のようにその場に倒れ込み、上半身は空中へと投げ出される。
「な、何だ!?」
フィリップが叫ぶ。
次の瞬間、彼等の前には巨大な剣を手にした、紺碧の甲冑に身を包んだ騎士が皆の前に姿を現す。
紺碧の甲冑が残像を残しながら凄まじい速度で草むらを駆け回る。その数はおよそ五人ほど。
その甲冑が草むらを駆ける度に、皆の身体が切り裂かれて胴や首が空中を飛ぶ。
それは正に地獄絵図のような光景だった。
「ひ、ひぃ! ブルターニュの騎士!? な、何でこんなところに!?」
突然の奇襲に怯えたフィリップは隊長としての責務を放棄して一人で逃げ出してしまう。
だが、紺碧の騎士達と仲間の学友達に背を向けて走り出して、すぐ、フィリップの首も一太刀の下に切断された。
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