学徒動員
ヴェルサイユ共和国とブルターニュ王国との戦争における最初の戦いは後世では“レノールの戦い”と呼ばれている。
その戦いの結果は一方的であったとも伝えられる事となった。
ヴェルサイユ共和国議会は、国内向けの政治宣伝と国外への圧力も兼ねて、二十万という大軍勢を編成して派遣した。
ヴェルサイユ共和国には現在、国軍と言えるものは存在しない。
共和国貴族がそれぞれ私財を投げ打って編成した私設騎士団による連合軍が事実上の国軍となっていた。
教会が固有の武力として教会騎士団を有しているように、諸侯も独自の騎士団を持っているのだ。
共和国議会の諸侯は、己の名誉と革命政権の威信を懸けて大軍を編成してブルターニュへと送り込んだ。
しかし、結果は大敗北だった。
ブルターニュ軍は極力戦いを避けながらヴェルサイユ軍を国内深くまで誘い込み、ヴェルサイユ軍の戦線を限界まで引っ張ったところで反抗作戦を展開。
諸侯の寄せ集めに過ぎなかったヴェルサイユ軍は呆気なく戦線が崩壊して敗走。
ヴェルサイユの国境まで逃げ切る事ができたのは全体の六割のみという大損害を被って終わった。
この事態に、国内では市民による暴動が多発する。
それはブルターニュ軍が国内へと攻め込んでくる事から来る恐怖心、そして革命政府の名の下に、旧王室に代わって好き放題している貴族に対する不満の爆発の表れだった。
「パルの都市部でも暴動が起きたらしいよ」
「クリティユじゃあ銀行が襲われたようだな」
ローランとオリヴィエは自室にて朝の新聞を読みながら呟いた。
いずれは共和国の重鎮であるロベスピエールを打倒する事を目指している二人は、新聞という庶民的な方法だとしても、世間の情報を集める事に余念は無かった。
毎日、欠かさず新聞を読むようにしていたのだ。
尤も、朝に弱いローランが朝起きてから新聞を読む事はほとんどなく、その日の夜に読むのが日課になっていたが。
「まるで三年前の革命の時みたいだね」
「……ああ。そうだな」
ローランは妙に不満気な顔をしていた。
「どうしたの? 浮かない顔をして」
「だってよ。もし、また革命が起きたり、ブルターニュがリュミエールまで攻めてきたりしたら、俺達が手を下す前にロベスピエールが殺されるかもしれないだろ! そうなったら、俺達の復讐はもう二度と果たせなくなるじゃないか!! 革命政府には精々頑張ってもらわないとな。俺の手があいつ等の喉元に届くまで」
「……うん。そうだね」
この時、オリヴィエは理解した。
ローランはあくまでも自分の手で復讐を果たす事を目的としているのだと。
結果的に共和国公安委員会長ヴァレル・ド・ロベスピエールが死ねば良いとは微塵も思っていない。
◆◇◆◇◆
レノールの戦いの大敗北から五日後。
国内の体制を立て直すためにも今、ブルターニュ軍の攻撃を許すわけにはいかない。
そこで共和国政府は、教会騎士団に対して出兵要請を出した。
「というわけです。おそらく君等生徒にも出兵命令が下るでしょう」
ローランとオリヴィエの世話係でもある
「という事は戦場を武功を立てる機会もあるかもしれないって事ですよね!」
嬉しそうにローランが声を上げる。
そんなローランにオリヴィエとブラダマンテは溜息を吐いた。
「まったく。お前という奴は。そんな呑気な話ではありませんよ。と言っても、学生をいきなり最前線に送ったりは流石にしないでしょう。大方、後方支援班に回されると思いますから。そんな機会が来たら、それはよほど絶望的な状況という事です」
「む~。つまんねえの」
「ローラン! ブラダマンテさんの話を真面目に聞かないとダメでしょ!」
「へいへい!」
「ふふふ。二人はこんな状況でも変わらんな。それは結構な事だ。だが、決して気を抜くなよ。後方とはいえ戦場に出る事には違いないのだからな」
「「了解です、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます