反ヴェルサイユ同盟

 ブルターニュ王国。

 かつては交通の要所として、陸路と海路の双方で重要な役割を担い、人と物の往来で大儲けしていた事で有名な国であったが、それももはや過去の話だった。

 ヴェルサイユの革命で王政が打倒された事で、周辺諸国の物流にも大きく影響を与え、ブルターニュの交通網は多大な被害を受けていた。


 そのダメージは次第に酷くなり、今では深刻な経済危機に悩まされていた。


 この事態を打開すべく今年国王に即位したばかりの若き王アラン五世は、強気の姿勢でヴェルサイユに挑戦状を叩き付けたわけだが、それも勝算があっての事だった。



 ブルターニュ王国王都エルメルのエルメル王宮。

 灰色の石材を積み上げて築かれたこの王宮は、豪華な装飾などは少ないシンプルな作りで、宮殿というよりは城のようだった。


 ここには今、ブルターニュと共に戦う意志を持つ同志が集っていた。


「我がブルターニュの復権のため。そしてそなた等の繁栄のためにも我等の協定は有益なものであると私は確信している」


 そう話すのは、煌びやかな衣装の上から深紅色のマントを纏った二十歳にも満たないくらいの金髪をした青年。

 彼こそがブルターニュ国王アラン五世である。


 玉座の前に設けられた円卓に彼は座り、そしてその円卓には他にも三人の人物が座っていた。


「我がゴーレムギルドはアラン王の提案された協定に参加致しますわ。ゴーレム兵団の力をヴェルサイユの堕落し切った貴族どもに見せつけてくれます!」

 アランの言葉を受けて、一番右に立つ女性が口を開く。

 青い生地に金色の刺繍が施された衣装に身を包み、青色の髪をした彼女の名は、アン・ビスキュール。

 ゴーレムギルドの頭領だ。


 ゴーレムギルドとは、岩石製の人形兵器“ゴーレム”の製造・販売を一手に手掛けるギルドで、国を問わず金さえ積まれればゴーレムを提供する死の商人だった。

 今では奴隷に次ぐ労働力を各国に供給している大規模ギルドである。


 しかし、ゴーレムが軍事利用される事を恐れたヴェルサイユの共和国議会からゴーレムの販売に多額の税金を掛けるなどの露骨な営業妨害を実施され、その事を恨んでビスキュールはこの場に現れたのだ。


 続いてビスキュールの隣に立つ小太りの男性が意気揚々とした口調で話し始める。


「我がジェーヌ銀行もこの協定に参加致します。資金面の方はどうぞご心配無く」


 この男の名はブローデル・グリマルディ。ジェーヌ銀行総裁である。


 と言っても、彼は事実上コリンティア共和国の国家元首でもあった。


 コリンティア共和国は、ガリア大陸の最南東部に位置する小さな都市国家で、世界有数の金融都市である。

 銀行によって統治されており、その銀行の総裁がグリマルディなのだ。


 彼は教会の意向にはさほど反感を抱いてはいないものの、戦争から生まれる利益に飛び付く形でこの場へ参上していた。


 キュプロスの隣に立つのは、褐色の肌のほとんどを晒した扇情的な衣装に、その上から熊の毛皮をマントのように纏った銀色の髪をした女性。


 彼女の名はマルフィーザ。ヴェルサイユよりずっと東に聳える山脈の向こうに住む狩猟民族インディゴを束ねる女王である。


 戦闘技能に長けたインディゴ族は、ヴェルサイユ共和国から危険視されており不遇を囲っていた。

 そこで一矢報いたいと思っていたところに、アランの勧誘を受けたのだ。


「我等インディゴ族の精鋭三万騎も同盟に加勢するわ」


「宜しい。他にも既に七つの国が協定への参加を密かに約している。我々の軍勢が一つになれば、ヴェルサイユすらも脅威ではない」


「ジェーヌ銀行の融資によって我がギルドのゴーレムの生産ライン増設は実現しました。これで予定期日までに十万体のゴーレム兵団が完成します」


 ゴーレムは個々の戦闘能力では洗練された騎士には到底敵わない。その実力差を埋めるために、ゴーレムギルドでは圧倒的な数の力を確保しようとしていた。


 これまでは資金面の問題からそれが難しかったものの、ジェーヌ銀行から多額の資金融資を受けた事で、実現へと漕ぎ着けたのだ。


 ビスキュールからの報告に、アランは満足そうに笑う。


「大いに結構。では直ちに行動を実行に移すぞ。計画は既に動いている。ヴェルサイユの落日は目前だ!」

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