開戦
それはローランとオリヴィエがいつものように教室で講義を受けている時。
知らせは突然、訪れた。
「戦争だ! 戦争が始まるぞ!!」
講師の一人が血相を変えて叫びながら教室に姿を現した。
「せ、戦争? 一体、何を言っているのです? 落ち着いて下さい」
教壇の上に立って講義を行なっていたメリッサが言う。
「す、すみません。ですがネール先生、これは一大事です! たった今、宮殿から首都中に通達がありました! ブルターニュ王国が我がヴェルサイユ共和国に対して宣戦を布告したと……」
“ブルターニュ王国”
それはヴェルサイユ共和国の西側に位置する王国で、国土はヴェルサイユのおよそ半分、国力は三分の一と言った小国だった。
以前から革命で混乱が続くヴェルサイユへの挑発行為を繰り返していた国で、ついに戦端が開かれたというわけだ。
如何にヴェルサイユに劣る国と言っても、ヴェルサイユ自身がまだ革命の後始末に追われているこの国情では、一概にヴェルサイユ優位とは言い難い。
この状態での開戦は、ヴェルサイユにとっても決して望ましい事ではなかった。
「ネール先生、緊急招集です。教員は全て職員室に集まって下さい」
「……分かりました。皆さん、私が戻るまで自習です。取り乱さずに待っていて下さい」
そう言い残してメリッサは教室を後にする。
しかし、これから戦争が始まると聞いて、黙っていられるはずがない。
教室に残された生徒は、しばらくは唖然としているが、誰かが声を発した瞬間、皆一斉に感情を表にする。
悲愴な声で叫び、顔面を蒼白にした。
無言のまま失神してしまう者まで出る始末だ。
だが、それも無理は無い。
現在のヴェルサイユ共和国の軍事力は安定しているとは言い難い。
騎士学院の生徒に対しても学徒動員令が発動されるのは容易に予想できる。
つまり、ここにいる生徒全員が戦場に駆り出される日もそう遠くは無いという事だ。
しかし、そんな中で一人ほくそ笑んでいる男がいた。
「おいオリヴィエ。この戦争で手柄を立てたら、飛び級で一気に騎士になれるかな?」
隣の席に座るオリヴィエの耳元で囁くローランは、そう言って無邪気に笑う。
そんな親友に対してオリヴィエは溜息を吐いた。
「まったくローランはお気楽だよね。戦場で死ぬかもしれないんだよ」
「その時はその時だよ。生きるも死ぬも俺はオリヴィエと一緒なら満足だからな!」
「ろ、ローラン……」
親友の言葉にオリヴィエは頬を赤くする。
「それに学院で馬鹿正直に勉強に励むよりも、こっちの方が俺達の目的達成の近道になるかもしれないだろ」
先ほどまでの無邪気な笑みは消え、ローランは殺気立った鋭い目つきでオリヴィエを見る。
親友と楽しい学生生活を送りながらも、ローランは家族を殺され、奴隷にまで身を落とすきっかけとなった人物、革命指導者ロベスピエールへの復讐を忘れてはいなかった。
その事をオリヴィエはこの時に実感する。
であるならば、オリヴィエの気持ちは決まった。
それがローランの生きる最大の目的だと言うのなら、
「うん。そうだね。僕も全力で頑張るよ」
「サンキューな。頼りにしてるぜ」
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