安息日

 今日は安息日。

 この日は教会の決まりとして、原則学業は禁じられている。強いて言うなら休息を取る事が義務づけられていると言って良い。


 しかし生徒達の朝は早い。

 皆、既に起床して街に出たり、剣の修練をしたりと思い思いの時間を過ごしている。

 ただ一人を除いて。


「ローラン! いい加減、起きなよ!」


「んん~。あと、五分……」


「その台詞、五分前にも十分前にも聞いたよ。安息日だからっていつまでも寝るのは良くないって」

 オリヴィエは温厚な口調とは裏腹に、ローランの被っている布団を強引に引っぺがした。


 布団を奪われたローランは止むを得ず、眠たそうな目を擦りながら上半身を起こして、大きな欠伸をする。

「ふぁああああ~。 おはよう、オリヴィエ~」


「ふふ。おはよう、ローラン!」


 これが二人の朝の日課だった。

 オリヴィエはいつも首都各地に立つ教会の鐘から告げられる時の音で起床しているが、ローランは鐘の音で目を覚ました事は一度も無かった。

 だから必然的に、ローランを起こす鐘の役目はオリヴィエに降りかかるわけだ。



 ◆◇◆◇◆



 グウウギュルルル~


「あー腹減ったな~。なあ、オリヴィエ、あそこの店、ちょっと覗いて行こうぜ」

 豪快に音が鳴ったお腹を擦りながら、黒髪の少年が大きく口を開けて言う。


「まったく。さっきお昼ご飯を食べたばっかりだろ。あんまり食べてばかりいると、そのうちブクブクに太っちゃうよ」

 ローランの横を歩く金髪の少年オリヴィエは呆れた様子で言う。


「大丈夫だって。俺達、まだまだ育ち盛りなんだからな!」


「だとしても、食べ過ぎでお腹を壊しても知らないよ」


「大丈夫大丈夫!」


 そしてローランが街に出れば、それは即ち食べ歩きとなるのは常だった。

 首都リュミエールは、大陸中から多くの人々が集まって、様々な物が行き交っている。当然、食べ物もだ。


 リュミエールの街は、六つの区に分けられている。

 まず一区は、リュミエールの街中を流れるリミル川の中州でリュミエール宮殿や官庁群と言った共和国政府機関が立ち並んでいた。

 その一区を覆うように、二区、三区、四区、五区が四方に形成されて、その外側をぐるりと囲うように城壁で覆われている。


 そして残る六区は城壁の外側全体を指し、かつてローランが暮らしていたスラム街もこの六区に含まれる。


「あ! と、時にオリヴィエ君、財布の中身の具合はどうかな?」

 何かに気付いた様子のローランは、途端に探りを入れるような言動を始めた。


 それを見て、ローランの意図を察したオリヴィエは小さく溜め息を吐いた。

「まったく。お小遣いがもう底を突いたんだね。ちゃんと計画的に使わないとダメだろ」


 ローランとオリヴィエの日々の生活は、教会が設けている特別奨学金制度から捻出されている。

 その資金は、生活をするのに必要な額はあるが、決して贅沢できるほどはない。


 しかし、その貰った奨学金の中でも辛うじて自由に使えるお金をローランは、ほとんど食に費やして胃袋へと消えてしまっていた。

 奴隷時代のひもじい日々へのトラウマから食に対する異常な執着が出たという側面もあるわけだが、それを差し引いてもローランの食欲は凄まじかった。


「うぅ。以後、気を付けます」


「まったくローランはしょうがないな。今回は特別だよ」


「マジか! 恩に着るぜ!」

 ローランは舌で自分の唇を舐めた。


 オリヴィエの財布から援助を受ける事も度々あり、オリヴィエに迷惑を掛ける事も度々ある。

 そんな親友ローランに内心ウンザリしているオリヴィエだが、彼が美味しそうに食事をする様を見ると、ついうっとりして許してしまうのだ。

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