第二話

 王宮に入った希海は瑠璃と共にある部屋の前に立った。


「では希海様、わたしはここまでです。後ほどお迎えに来ますので」


 瑠璃はそう言うとにこりと笑みを浮かべてその場を去った。


 希海は部屋の前に佇んだ。


(ノックするだけなのに。お相手がヴァンパイアだからかな。いや、相手が誰でも緊張するんだろうな)


 そんな事を考えていると扉の向こうから盛大な舌打ちが聞こえてきた。


 希海がびくっと体を揺らし驚いた表情を浮かべた。


「入るなら早く入ってこい」


 若い男性の声、少年に近い声色の声に希海は指先を震わせながら扉をノックして「し、失礼します」と一言述べると扉の向こうから「入るなら入れ」とまた少年の声が聞こえてきた。


 扉を開けて中に入ると黄金色の短い髪にエメラルドグリーンの瞳をした少年が椅子に座っていた。


「お前が『春の国』の第二王女か。僕は『中央の国』の第二王子、一文字いちもんじ瑛都えいとだ」


 瑛都はそう言うと「よろしくしたくないがよろしく」とだけ言うと椅子から立ち上がり希海の顔をまじまじと見つめた。


「な、何か……?」


「お前、オッドアイなんだな」


「そう、ですね」


 希海が返事をすると瑛都はにやりと何か企んでいるような笑みを浮かべた。


「しがない人間が来ると思っていたが僕は運が良いな」


 瑛都はそう言うと希海の首元に顔を近付けて何故か匂いを嗅いでいた。


「あの?」


「おい」


「はいっ」


「血を飲んでみても良いか?」


 あ、そういえば彼は吸血鬼なんだった。


「ど、どうぞ」


 希海は両目をぎゅっと瞑り、痛みが来るのを待った。無意識に希海の体が恐怖に震えているのを見た瑛都は深い溜息を吐いた。


「止めだ、止め。そんなに怯えられては吸うに吸えん」


「えっ……」


「体が震えていたぞ。吸血鬼に血を吸われた事無いだろ」


「ない、ですね」


 希海がそう言うと瑛都はむすっと拗ねた子どものような表情を浮かべた。


折角せっかくオッドアイの人間が来たというのに血が飲めないとは」


「あの、オッドアイって関係あるんですか?」


「なんだ、王族のくせに知らんのか。『中央の国』の吸血鬼の間で昔から言われている話だ、オッドアイの人間の血は美味なのだと」


「そう、なんですね」


 瑛都と会話をしている間、希海は一度たりとも瑛都と目を合わせてはくれなかった。瑛都は内心『変わった王族だな』と思った。


「瑠璃、そこにいるか」


 瑛都は部屋の扉に向かってそう言うと扉の向こうから「はい、ここにおります」と瑠璃の声が聞こえてきた。


「この人間を部屋へ連れて行ってやれ。僕はお父上の所へ行く」


「瑛都様、陛下からのお達しです。『春の国』から来た姫君を連れて王の間に来るように、との事です」


「ちぇっ」


 えっ、今この人舌打ちした!?


 希海が内心驚いていると瑛都は「分かった」とだけ言うと希海を見て「おい人間」と声を掛けた。希海はその声にびくっと体を震わせた。


「は、はい」


「一緒に行くぞ。ついて来い」


「はい」


 静かに希海が返事をすると瑛都は『人形みたいな人間だな』と思いながら部屋を出て王の間へ希海と共に向かった。

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箱庭の姫君 水無月累 @minadukirui

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