第一話

 次の日、見送りもなく転送魔法で『中央の国』に希海は送られた。希海の首元にはアパタイトのチョーカーがあった。


 転送魔法で『中央の国』の神殿に送られた希海は神殿の大きさに驚いた。『春の国』にある神殿には幼い頃一度しか行った事があるだけだが幼い頃に見た『春の国』の神殿よりも大きかったのだ。


「桜小路希海様ですか?」


 神殿の大きさに呆気に取られていると背後から声を掛けられた。希海が背後を振り返るとそこにはメイド服を着た女性が立っていた。茶色の髪を三つ編みにしており瞳の色は赤色の女性だ。


「はじめまして、わたしは瑠璃るりと申します。本日より希海様付きの侍女になります」


「は、はじめまして」


 希海が慌てて頭を下げようとすると瑠璃は慌ててそれを止めた。


「希海様、わたしなんかに頭を下げないでください。わたしはただの侍女ですから」


「そういうものなんですね、失礼しました」


「あと、敬語も使っていただかなくても大丈夫です。わたしの方が格下ですので」


 瑠璃はそう言うとにこりと笑みを浮かべて「第二王子様はこちらでお待ちです」と言い神殿から王宮へと案内した。


 神殿から王宮へはかなり距離があるそうで馬車を使って王宮へ向かった。


「植物がたくさんある」


「希海様のお国も植物が豊富だとお聞きしました。『中央の国』はそう多くはありません」


「外にあまり出なかったので分からないです」


 しまった、また敬語が……。


 希海がそう思い口元を手の平で覆うと「徐々に敬語を無くしていきましょう」と妥協されてしまった。


(王女なのに侍女に敬語を使うなんて、可笑しいと思われるかしら)


 そんな事を思っていると瑠璃が希海に問い掛ける。


「希海様は氷雪の魔法に長けているとお聞きしました。今度お見せいただいてもよろしいでしょうか?」


「良いですけど、気味悪くないんですか?」


「何がでしょう」


「『春の国』の王族は植物を操る魔法に長けている者が多いです。なのに、私は氷雪を操る魔法に長けている。普通なら『冬の国』の王族に見られる事です」


 希海はだんだん声を小さくさせながらそう言っていると瑠璃はきょとんとした表情を浮かべて「そうでもないですよ?」と言った。


「もしかすると隔世遺伝かくせいいでんかもしれないですね」


「かくせい……?」


「隔世遺伝。祖父母よりも前の世代の遺伝子が何代もあとの子どもに現れる事、だったはずです」


 すみません、うろ覚えなので。


 そう言い申し訳なさそうに頭を下げる瑠璃を見て「いえ、そんなっ」と希海は両手を振った。


「私が何も知らないだけなので」


「失礼ですが今まで勉学とかは……?」


「独学です。教師をつけて貰った事はなくて」


「そうなんですね」


 そんな会話をしていると王宮に着いたようで馬車が停まった。


「希海様、王宮に着きましたので降りましょうか」


「あ、はい」


 馬車から降りた希海と瑠璃は王宮の中に入った。

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