第8話 力比べ


 闘技場に来ていた。

 闘技場はカルシュタイン侯爵家の広大な土地の中にある。

 闘技場は円形劇場とも呼ばれていて、中央のアリーナと呼ばれる地面を観客席が囲んでいる。

 普段はカルシュタイン侯爵家の騎士達の練兵に使用されているけど、練兵に使わない時はレヴァーデンの領民に無料で貸している。


 観客席にはカルシュタイン侯爵、父様、ミーアがいる。

 母様は見るのが怖いと言って来なかった。ユンナーと一緒にセリカの世話をしている。


「アリス様、今回の私との力比べに条件をつけたいと思います。ペレアス様とアーサー様も了承済みです」


 何だろうと思って、エラードさんを見る。


「魔眼と魔法は使わずに私と戦って下さい」

「え!?」


 その条件は厳しいと思った。

 魔法だけなら未だしも魔眼も駄目だなんて……


「魔法と魔眼を両方使える者はおそらく聖ソフィアにアリス様しかいないでしょう。アリス様はペレアス様の娘となられるお方です。大変な注目を浴びるでしょう。特別な力も見せてしまえば、必ず妬みの対象となります。ですから、魔眼と魔法の力を隠して騎士学校を卒業されるべきだと思います。…… ですが、まずは私とペレアス様が納得できる実力をお見せください」


 エラードさんは私から離れて木刀を構えた。それを見て、私も木刀を構える。


 厳しい条件だけど、呑むしかない。だって、騎士になるためだ。


 カルシュタイン侯爵が声を上げる。


「始めても良いかな?」


 私とエラードさんは頷いた。


 そして、カルシュタイン侯爵が叫ぶ。


「始め!」


 カルシュタイン侯爵の声を聞いた瞬間に、地面を蹴って飛び出した。

 霊気を全身で吸収して身体能力を向上させる。


 いつもなら魔眼で霊気がハッキリと見えるけど、魔眼を解放していないから、感覚に頼るしかない。


 先手必勝!

 木刀に霊気を纏わせて、エラードさんの胴を横薙ぐ。

 エラードさんは木刀で私の攻撃を受け止めるのではなく、後ろに下がって攻撃を躱す。


 速い。

 やっぱりエラードさんも霊気を操れる。

 そして、吸収している霊気の量は私よりも多い気がする。


 このまま攻め続けても良いものかと思い、一度立ち止まる。

 すると、今度はエラードさんが攻撃を仕掛けてきた。


 一瞬で私との距離を詰める。

 木刀が左上に見えた。

 剣速が恐ろしいほど速い。


 木刀を当てて、その反動で後ろへと下がる。

 エラードさんは私を猛追。

 様々な剣技を放ってくる。


 何とか木刀を使って避ける。

 速くて重い。

 決定打はもらわないけど、避ける度にエラードさんの攻撃が体に掠る。

 必死にエラードさんの攻撃を防ぐが、私は防戦一方だ。


 接近戦で攻撃を当てるには何か隙がないと……

 隙は自分で作るしかない。


 大振りの攻撃を誘って、半身で躱す。

 後方に下がって、かなりの距離を取った。

 この距離ならエラードさんでも一瞬に距離を詰めることはできない。


 エラードさんは警戒をしているみたいで、私の様子を見ている。


 今のうちだ。

 木刀に霊気を集めろ。

 連続で光霊剣こうれいけんを放って、隙ができた瞬間を狙う。

 隙ができた瞬間のために、脚にも霊気を集める。


 木刀を高く上げて振り下ろす。


「光霊剣!」


 光の刃が地面を切り裂き、高速で光の刃がエラードさんに向かう。

 一瞬、エラードさんは驚いた顔をしたけど、難なく躱す。


 躱されることは分かってる!

 この光霊剣はオトリだ。

 だから、全力で放っていない。


「光霊剣!」


 もう一度躱される。

 体勢を整えさせる暇を与えない。

 光霊剣の嵐を放つ。

 エラードさんが宙に飛んで躱したのが見えた。


「光霊剣!」


 光の刃は宙に浮かぶエラードさんに向かって飛ぶ。

 エラードさんは身を翻して、ギリギリで躱す。


 今だ!


 更に霊気を木刀へ纏わせた。

 脚に溜まっていた霊気を爆発させて、一気に駆ける。


 エラードさんの体勢が少し崩れるのが見えた。

 ゼロ距離の光霊剣なら止めれないはず。


 距離を詰めて、渾身の一撃を放つ。


「光霊剣!」


 エラードさんも木刀を振るのが見えた。

 光霊剣と交差して、エラードさんの斬撃が無数に分裂する。


「無連剣」


 衝撃で空気が揺れる。

 私は後方に吹き飛ばされた。

 地面に転がる。


 起き上がると、木刀の切先が首もとにあった。


「私の負け……」

「いえ、引き分けです。お見事でした。見てください」


 エラードさんの木刀が粉々に砕け散る。


「引き分け…… 勝ちたかった」


 いつもと同じく、力を使い切った私は意識を失ってしまった。





























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