第50話 廃嫡王子と愚かなエルフ王


「ようこそいらっしゃいました。王がお待ちです」


 馬車から出ると、案内役の兵士についてくるようにと合図をされる。

 兵士を先頭にクレール城へ入った。

 廊下の両脇で兵士がヨハンたちに一礼をしている。ヨハンも目礼で返していた。


 けっこう歩くと思った。レオーネと一緒に来た時は謁見の間に案内をされたが、今回は玉座の間と呼ばれる場所に案内される。

 玉座の間にいるのはカリギュラス王だけではなく、アルフヘイムの貴族たちもいるらしい。


 美しい模様が彫られた扉の前に着いた。扉の前に立つ兵士の合図で大広間に入る。


 謁見の間に比べて玉座の間は豪華。謁見の間は何もない印象だったが、玉座の間は黄金で輝いている。壁や天井は黄金で創られていて、特に天井は色んな宝石が鏤められている。

 大理石の床に赤の絨毯が敷かれ、広間の両側には色んな人たちがいる。高そうな服や宝石を身に付けていた。一度会ったことのあるバルド宰相もいる。


 カリギュラス王が座る玉座の前まで行くと、ヨハンたちは跪いた。ヨハンたちの後ろで私も一緒に跪く。


「良く来られた。ヨハン殿、ギルベルト殿。歓迎する」


 カリギュラス王が口を開いた。感情の込もっていない声色だ。


「妖精神アルタニウスの名の元に祝福を祈り、カリギュラス王へご挨拶を申し上げます」


 ヨハンがエルフの最も丁寧な挨拶をした。この挨拶は身分が高い者に対して使う。


「表を上げられよ」


 少し顔を上げる。もちろん目は合わせない。


「ヨハン殿、レオーネの元では不自由はないか?」

「はい、良くしていただいています」

「それは良かった。それを聞いて、私も安心だ。だが、もう帰ると聞いた。何か問題でもあったか?」

「全くありません。私はレオーネ様を師として剣を学び、横に控えておりますギルベルトも良く学びました。なので、帰国したいと思います」

「そうか、それならば良い。ヨハン殿のことはハインツベルグ公爵から良く聞いている」


 淡々と答えていたヨハンの体が少し揺れた。


 ハインツベルグ公爵って確かヨハンと敵対している人だ。


「…… そうですか」


 すると、カリギュラス王が不敵に笑って言う。


「そう言えば、我が国と貴国の間に情報の行き違いがあったそうだな。随分早く着いたそうだが、何もなかったか?」

「はい、何も」

「そうなのか? 聞いた話と違うな。私が聞いた話によると、着いて早々、ラルヴァの群れに襲われたと聞いたが?」


 おかしい。

 どうしてカリギュラス王が知っているの?

 ラルヴァに襲われた話はヨハンたちに口止めをお願いされて、誰にも言っていないのに。


「それにしても、態々ガルリオーザ側から我が国に入るとは、ある意味で頓知をきかせすぎだ。ヨハン殿、面白いぞ! アハッハハハハハハハ――」


 カリギュラス王の大きな笑い声に倣って、貴族たちもクスクスと笑う。

 今の状況はヨハンが馬鹿にされているんだと私でも分かった。


 ヨハン、大丈夫なのかな?

 ヨハンを見ると、肩が震えだしてカリギュラス王と同じく笑い出した。


「クッククク、確かに面白いですね。帰国しましたら、頓知のきいた案内を私にした者を叱っておきます」


 カリギュラス王はヨハンの様子が気に入らないようで、冷たい声で言う。


「ヨハン殿、帰りの道中は気をつけられよ。我が国に来た時と同じことがあるかもしれん。決して死なぬようにな」


 ヨハンも同じく冷たい声で言う。


「こ心配ありがとうございます。ですが、カリギュラス王が心配をなさらなくても大丈夫です。私は簡単に死ぬわけにはいかないので」


 カリギュラス王は何も言わずに立ち上がり、玉座の間から去った。貴族たちもまた王に倣う。

 誰もいなくなったことを確認して、私たちも大広間を出た。


 案内役の兵士がいて、帰りの馬車まで案内される。

 外に出ると、乗るための馬車はない。

 まだ準備されていないと思い、しばらく待つがそれでも馬車は来ない。


「馬車はまだなのか?」


 遅すぎると思った頃に、ヨハンが案内役の兵士に聞いてくれた。


「馬車はございません。歩いてお帰りください」


 と言うと、兵士はさっさと去っていく。


「え? どういうこと?」


 私は意味が分からなくて聞き返してしまった。

 当然、ヨハンたちも呆気に取られた顔をしている。


「程度の低い嫌がらせだな」

「嫌がらせ?」

「ああ。カリギュラス王の指示だろう。きっと俺の反応が気に入らなかったんじゃないか。一国の王がこれか。愚かな王はどこの国でもいるな」


 最後に思ってもいなかった仕打ちを受けてしまった。とても不愉快な気持ちになる。


「歩いて帰れか…… とても笑える話だ」


 言葉とは裏腹に、ヨハンは一度も笑わなかった。















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