第40話 新しい友が二人


 カイの手綱を引いて、ヨハンとギルベルトと一緒に歩いていた。


「納得したよ。君は魔眼を開眼して、魔眼の制御のためにアルフヘイムにいるんだね。それにしても驚いたよ。アリス、君が僕たちと同じ聖ソフィア王国の出身だなんて」


 魔眼が開眼したことを話して、二人の警戒を解いた。今は一緒にギムト村まで歩いている。

 歩いたら、四時間ほどかかる予定。何もなければ、午後には着く。少し長い道のりかもしれないけど、平坦な道が続くから大きな疲れにはならないと思う。楽しく話をしていれば、ギムト村まできっと直ぐだ。


「私、ちょっと楽しみにしてたんだ。二人に会うの。アルフヘイムに人族は私しかいなかったし、それに同じ国の人って聞いたから」

「僕も嬉しいよ。同じ国の人がいて」


 私は気になっていたことを質問する。


「二人のどっちがエルフの先祖返りなの?」

「俺だ」


 ギルが答えて、髪を上げて耳を見せる。


「ほんの少し耳が尖っているだろう。俺のエルフの外見的な特徴はそれぐらいだが、精霊たちと少し意志疎通ができる」

「エルフの人たちとあんまり変わらないんだね」

「八百年ぐらい前の先祖がエルフと結婚をしていたみたいだ。そのお陰で、物心がつき始めたくらいから簡単な精霊魔術が使えたよ」

「そうなんだね。ねぇ、もう一つ聞いてもいい?」

「なんでも答えてやるよ」

「じゃあさ、ギルのレーヌってミドルネームなの?」

「ああ、そうだ。何か気になったか?」


 ギルは出会った瞬間、私に警戒をしていた。でも、打ち解け始めると、ギルは笑顔の素敵な優しい少年だと分かった。


「私の村の近くにレーヌって言う名前の町があるから」

「そうなのか!? レーヌは俺の町なんだ。良い町だろう?」

「俺の町?」


 私が首を傾げたので、ヨハンが説明をしてくれる。


「僕の従者だけど、ギルも貴族なんだ。ギルはシュタイナー伯爵の三男で、シュタイナー伯爵はレーヌを含むエルガルを領地としているよ。シュタイナー伯爵家の子どもは産まれた瞬間にエルガルにある一つの町を領地とするんだ」

「へー。だから、レーヌがミドルネームなんだね。貴族って、やっぱりすごいんだね」

「どうしてだい?」

「だって、レーヌはとっても素敵な町よ。あの町があるのは貴族のお陰ってことでしょ? ギル、ありがとうね」


 すると、ギルは下を向いて黙ってしまう。

 どうしてだろう? 私、悪いこと言った?


 ヨハンがギルの肩を叩いて言う。


「ギル、アリスがありがとうって言ってくれているよ」

「…… 失礼しました。アリス、俺の力ではないよ。父上の領地経営が良いだけだ」


 私、何かおかしなことを言ったのかな?

 ギルが黙ったことや変な間があったことも気になってしまう。

 それに、ヨハンもずっと変な感じがする。上手くは言えないけど、まるで仮面を被って素顔を隠しているような……


「アリス、考えことかい? 難しい顔をしているよ」

「え? あ、何でもないの。ちょっとボーッとしてしまっただけ」

「僕たちを助けるためにラルヴァと戦ったから疲れたんじゃないのかい? 僕たちに気を遣わず、馬に乗ったらどうだい?」

「全然疲れてないよ。平気平気、もう百戦できるくらい力が有り余っているよ」


 ヨハンたちに私が元気だと思ってもらうように、私は腕を曲げて力こぶを見せようとする。

 思ったことが顔に出てしまうのは私の悪い癖、反省だ。


「可愛い力こぶだね。でも、元気なことは分かったよ」


 ヨハンに言われて、ちょっとだけ顔が熱くなる。

 筋肉がちょっとしかないのは気にしている。こんなにも鍛えているのに。ギルみたいな体が羨ましい。


 ギルの体を見ていると、ギルに嫌そうな顔をされる。


「どうして俺の体を見るんだ?」

「羨ましい筋肉だと思って。私、全然筋肉がつかないんだよね」

「アリス、君は筋肉がなくてもとても強いと思うよ」

「本当!?」

「う、うん」


 強いと言われて、とても嬉しかった。ニヤニヤして顔の緩みが止まらない。


「アリス、君は本当に強いよ。あのラルヴァを殆んど一人で倒してしまうのだから」

「レオーネの弟子だからね!」

「レオーネ? 守護六星剣しゅごろくせいけん最強のレオーネのことかい?」

「そうよ。レオーネは私の目標なの」

「とても羨ましい話だ。だけど…… アリス、女の君が強くなってどうするんだい?」


 ヨハンの質問の意味を理解せずに、いつものように私は答える。


「私は最強の騎士になりたいの」


 二人はなぜか驚いたように顔を見合わせた。

 ヨハンは心配そうな顔になって言う。


「君はとても強いから可能性があるかもね。でも、女の君には過酷な道だ」

「大変なことぐらい知っているわ」

「本当に知っているかい? 僕たちの国、特に貴族は男尊女卑だんそんじょひの世界だよ。知っていると思うけど、正式に騎士となるには騎士学校を卒業してから、貴族から叙勲じょくんを受けないといけない。それに、君の力が強いことは逆に損になるかもしれないよ。騎士になる者には貴族出身者も多い。きっと、女の君が強いと嫉妬や妬みを生む原因になる。アリス、嫌な目に遭うかもしれない。貴族である僕が言うのもおかしな話だけど、騎士になるのは諦――」


 それは親にも言われていたこと。それぐらいのことで私の誓いは揺らがない。

 ヨハンの言葉を遮って、私は言う。


「諦めないよ。私は最強の騎士になるって自分の魂に誓ったもの」


 ヨハンたちはキョトンとした顔になる。

 そして、ヨハンがハハッと笑う。


「魂にか…… それは面白いね。じゃあ、もう何も言わないよ」


 再び穏やかな会話が始まる。

 皆で会話をしていると、やっぱり四時間はあっという間に過ぎた。直ぐにギムト村へ着いてしまう。

 この四時間ほどで、私は新しい友達が二人もできた。















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