第41話 アリス、姉弟子となる


 ギムト村に着いたヨハンたちはレオーネと会った。すると、直ぐにライ王子も王都ディニタスから来て、ヨハンたちと会話を始めた。

 ヨハンたちが会話をしている場所は、ギムト村に不釣り合いな大理石で建造された豪華な屋敷。この建物は村の中で宝石のように輝いている。

 聖ソフィア王国の貴族は豪華絢爛ごうかけんらんを好んでいると聞いて、ライ王子たちはこの屋敷を建てた。

 でも、ヨハンたちはこういうもてなし方は好まない気がする。


 今、私はミーアと一緒にレオーネの家で待っている。


「アリス、どんな方たちだったのですか?」


 ミーアはキラキラした目で質問をしてきた。


「普通の人たちだよ」

「チラッと見ましたが、とても素敵な殿方たちでしたよ。アリスは何も思わなかったのですか?」

「何もって……」


 ヨハンの顔を思い浮かべる。エルフに劣らない端整な顔立ちをしていた。


「カッコいいとは思ったよ」

「カッコいいと思ったのはヨハン様? それとも、ギルベルト様?」

「…… ヨハンだけど」

「キャーー!! わたくし、嬉しいですわ。アリスも素敵な殿方を分かる時が来たのですね。わたくしはギルベルト様が魅力的だと感じましたわ」

「私のはミーアの思っているのと違うよ」

「恥ずかしがるなんて、アリスらしくないですわ」


 別に恥ずかしがっていないんだけど。

 ミーアはカッコいい人の話や可愛い服の話が大好きだけど、私は苦手。

 興味はないこともない。


「それにしても、どうしてギムト村に滞在をするのでしょう? アリスは何か知っていますか?」

「それは……」


 カリギュラス王の話をミーアには話したくない。どうしよう……

 私が黙っていると、レオーネが家の外から私たちを呼んだ。

 ミーアが真っ先に反応して外へ出る。困っていたから、助かったと思った。

 ミーアに続いて私も外に出て、レオーネの元へ行く。


「アリス、ヨハン様に剣を教えることになった。お前も協力してくれ」

「そうなの?」

「ああ。それと、ミーア。お前にもしてもらいたいことがある」

「はい。何でも仰って下さい」

「ギルベルト様に魔法を教えてやってくれないか?」

「魔法を? ギルベルト様は妖精門をお持ちなのですか?」

「ああ、持っている」

「でしたら、わたくしが責任をもって、ギルベルト様にお教えしますわ」

「そうか、助かる」


 ヨハンもレオーネの弟子になるってことだよね。でも、レオーネの弟子になったのは私が先。つまり……


「私、姉弟子だ!」


 レオーネがわざとらしくゴホンと咳き込む。


「分かっていると思うが、ヨハン様に失礼がないようにな。ヨハン様はこの国の大切なお客様だ。しかも、お前の国の位が高い人でもある」

「分かってるよ。任せて!」


 ヨハンたちが私たちの元に来るのが見えた。

 私はヨハンの元へ駆け寄る。


「ヨハン! 私が姉弟子だからね!」


 レオーネの怒鳴り声が響く。


「アリス!!」


 驚いて思わずビクッとする。


「レオーネ、冗談だよ」


 レオーネの大きな溜め息が聞こえた。


 私たちを見て、ヨハンが微笑む。


「レオーネ様、僕は構いませんよ。気軽に接して下さい」

「ほらね」


 と私が言うと、レオーネは何故か頭を抱えた。


 ミーアが側にいないと思うと、ギルと会話をしていた。

 ミーアは嬉しそうな顔だ。

 話相手のギルを見ると、どうしてか赤い顔をしている。でも、ミーアと同じで嬉しそうにも見える。


「アリス、これからよろしく。僕は強くなりたいと思っている。是非、君の剣を学ばさせて欲しい」


 ヨハンが笑顔で私に手を差し伸べる。

 私は快くその手を取った。

 ようやく握手ができる。私からの握手は断られてしまったから。


「こちらこそよろしく。私、手加減はしないからね」


 こうして私はヨハンの姉弟子になった。














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