第39話 燃える覚悟


 魔眼で把握できるラルヴァの数は五十体ほど。全て下級のラルヴァだ。

 でも、こんなにいるなんて。全部倒すには手を焼きそう。気を引き締めないといけない。


 剣を数度振って、茶髪の少年への道を作る。


「下がって!」


 防戦一方になっていた茶髪の少年とラルヴァの間に私は入った。


 正面にはラルヴァの壁。

 こんなにいるのか……

 ラルヴァで見えないけど、もう一人別の場所で戦っている。

 斬撃音が近づいてきている。後ろの少年の元に来ようとしているみたい。


 私は体に霊気を取り込み、剣に霊気を纏わせる。


 後ろを振り返らないで少年に聞く。


「もう一人はあなたの仲間?」

「僕の従者です」

「分かった。私はラルヴァを倒すね」


 ラルヴァの壁を斬り裂いて、体の大きな少年がこちらへ来た。

 私は入れ代わるように飛び出す。


 残るラルヴァは三十体ほど。ヴォルスが殆んどだけど、その中にはオツロもいる。

 オツロは二足歩行型のラルヴァで小さな体に短い手足。全身は黒色の毛に覆われていて、手には鋭利な爪がある。爪の攻撃はかなり危険だ。


 ヴォルスの首を剣で飛ばすと、オツロの集団に向かう。

 オツロも私に反応して俊敏な動きで攻撃を仕掛けてきたが、その攻撃を跳躍して躱す。

 私は空中で身を翻して、着地の瞬間にオツロを数体まとめて斬り裂く。


 少年たちの方をチラッと見る。

 襲ってくるラルヴァの数は少ない。大丈夫そうだ。


 レオーネにはまだ遠く及ばないけど、私はちゃんと強くなっている。


 残りのラルヴァは少ない。余裕ができた。

 せっかくだから、魔眼を鍛えよう。

 ラルヴァの正体は負の感情だ。私の浄天の魔眼はラルヴァがどんな負の感情を持っているのか読み取れる。


 三体のヴォルスを見つめる。

 黒と緑が混ざったような色が見える。これは妬みだ。

 すると、三体のヴォルスが私に突進をしてきた。


 その三体のヴォルスを纏めて薙ぎ払う。残りのオツロは俊敏な動きで私を囲んで攻撃をしようとするが、それを上回る速さで私は動き、縦に一刀両断する。


 剣を鞘に納めた時には、無数の赤魂石せっこんせきが地面の至る所に転がっていた。


 私は少年たちの元へ近寄る。

 魔眼は開放状態のままにしておく。一応警戒のためだ。


 少年たちの顔を見ると、茶髪の少年に目線が吸い寄せられた。

 少年とも目が合って、ドキンと胸が高鳴る。

 赤みがかった茶髪に鮮やかな青色の瞳、とても綺麗な顔立ち。


 私は浄天の魔眼を使って、茶髪の少年の感情を読み取ろうとする。もし、少年たちに敵意があれば、事前に分かる。

 橙色のモヤが茶髪の少年の背中に見える。橙色は喜びの感情。無事で安心したから喜びの感情が出ているのだと思う。

 橙色のモヤを見つめていると、その中に赤色の光がチラチラと見える。赤は怒りの感情だが、それとは違うような感じがする。

 なぜかとても気になって、魔眼に霊気を更に込めて集中する。赤色の光がはっきりと見える。それは赤色の光ではなくて、激しく燃える炎だった。

 魔眼の稽古で色んな人の感情を色として見てきたけど、感情が炎として現れるなんて見たことがない。

 だけど、不思議。私はその炎にとても強い覚悟を感じた。


「近づくな!!」


 もう一人の少年が怒鳴った。


 もう一人の少年は茶髪に薄緑の瞳。ガッシリとした体をしていて、かなり鍛えられているように見える。


「なぜアルフヘイムに人族の女がいる!?」

「なぜって言われても…… でも、その前に何か私に言うことがあるんじゃない?」


 私はムッとした顔で言った。


 茶髪の少年がもう一人の少年を手で制して言う。


「僕の名前はヨハン・フォン・カルシュタイン。横にいるのが、僕の友で従者のギルベルト・レーヌ・シュタイナー。友の非礼を謝らせて欲しい。それと、僕たちを助けてくれてありがとう。貴女のお陰で命拾いをした」


 ヨハンと名乗った少年に感謝のお辞儀をされた。ギルベルトと呼ばれる少年もヨハンがお辞儀をしたのを見て、遅れて私にお辞儀をする。


 二人の姿を見ながら、私は首を傾げる。

 カルシュタイン?

 聞いたことがある気がして、少し考えると、直ぐに思い出した。


「あ!」

「どうしたんだい?」

「あなたたち、二週間後に来る予定の貴族ね」

「二週間後!?」


 ヨハンとギルベルトが顔を合わせて驚いた。


「どうして二週間後に来る予定のあなたたちが今いるの? しかも、ガルリオーザの道を通ったみたいだし。マディールを経由するんじゃなかったの?」

「…… どうやら情報の行き違いがあったみたいだね。僕たちは今日、ガルリオーザからアルフヘイムへ入国する予定だったんだ」

「ガルリオーザから? ガルリオーザからアルフヘイムに来るなんて駄目よ。エルフはガルリオーザに一歩でも近づきたくないんだから。いつもはここ誰もいないわ。本当に私が来て良かったわね」

「そうだね。本当に感謝をしている。僕たちの遊学を知っているということは、君はアルフヘイムの王族と関係があるみたいだね。君の名前を教えてくれるかい?」


 そう言えば、自分が名乗っていなかったことに気がつく。


「私の名前はアリステリア。アリスって呼んで」

「アリスだね。僕のこともヨハンと呼んで欲しい」

「俺の名前はギルベルトだが、長いからギルって呼んでくれ」


 私は二人の顔を交互に見て言う。


「ヨハンとギル。よろしくね」


 握手をしようと手を差し伸べた。だけど、ヨハンは黙って私の手を見つめている。


「どうして人族の君がエルフの国であるアルフヘイムにいるんだい?」


 どうやらヨハンたちの私への警戒心はまだ解けていなかったみたい。

 私はアルフヘイムに来た事情を簡単に説明することにした。













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