第38話 遠乗り


 早朝、まだ日も上っていない頃に私は外に出た。


「寒っ!」


 体をブルッと震わせる。防寒着を着ているけど、それでも寒い。

 地面を見ると、霜が降りている。寒くて当然だ。

 アルフヘイムの冬は長い。今から五ヶ月ほどは続く。


 霜の降りた地面を踏みながら、村の馬小屋に行く。馬小屋に入ると、奥へ進む。


「おはよう、カイ」


 私が挨拶をした相手は美しい毛並みの馬。たてがみと体毛は薄っらと青い。カイは霊馬れいばと呼ばれる存在で、精霊に近い存在。

 私に気がついたカイは頭をすり寄せてくる。私が優しく頭を撫でると気持ちの良さそうな声を出した。


 カイを馬小屋から出す。


「今日はエルナ湖まで行くつもりだから。カイ、よろしくね」


 私はカイの背に乗った。

 カイが体をブルブルと震わせて走り出す。


 エルナ湖はブラハ林道を通って行く。ギムト村を出て、北に向かうと、ブラハ林道へ入る。そのブラハ林道を抜けると、エルナ湖に着く。

 そして、エルナ湖の向こう岸にはガルリオーザへと続く彷徨さまよいの森が見える。

 ブラハ林道でエルフを見かけることはない。エルフがこの林道にいないのは、ドワーフが住むガルリオーザ王国に近くなってしまうから。エルフはドワーフに少しでも近づきたくない。エルフのドワーフ嫌いは筋金入りだ。どうしてかは知らないけど……

 私はドワーフとお話をしてみたいと思うんだけどね。


 パカパカとリズムの良い音が響く。カイの背に乗っているけど、全く揺れない。カイは私に気を遣って揺れないように走ってくれている。カイは速いから、あっという間に景色が過ぎ去っていく。

 乗馬ができるようになったのは三ヶ月前。それからは色んな場所へカイと一緒に遠乗りをしている。


 そう言えば、二週間後に聖ソフィア国の貴族が来るらしい。

 貴族に会うのは少しワクワクする。

 父様が教えてくれたけど、私のお祖父さんに当たる人が貴族になる。実感はないけど……

 もうすぐ来る貴族の人たちはどんな人かな?


 そろそろブラハ林道を抜けて、エルナ湖が見えてくる。


「ォオオオオオオ!」


 ギーン! ギーン!!


 気合いの声一緒に剣と何かがぶつかるような音が響く。

 ブラハ林道を進む度に、どんどん音が大きくなる。

 エルナ湖の辺りで誰かが戦っているみたいだ。


「カイ、急いでくれる?」


 カイは更に速く走る。

 ブラハ林道を抜ける前に、私は魔眼を開放状態にする。


 そして、ブラハ林道を抜けた。


 湖岸は無数のラルヴァによって、覆い尽くされているみたいだった。


「俺はこんなところで死ねない!」


 声の先を見ると、茶髪の少年がラルヴァに囲まれていた。

 私はカイから降りる。


 剣を抜き、ラルヴァの塊に突撃した。
















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