第30話 光霊剣


 レオーネとの厳しい稽古が始まって一週間が過ぎた。新しい稽古が始まってから、場所を変えた。今までは家の庭だったけど、荒地近くの小さな岩山で行っている。今も稽古の真っ最中だ。


「この前も言ったが、お前は子どもの中では強い方だ。霊気も扱え、剣術もかなり使える。アリス、お前を更に強くするために、私の光霊剣こうれいけんを教える」

「光霊剣?」

「私の剣の奥義だ。アリス、この一週間でお前の実力を確かめさせてもらった。お前は既に霊気の操作段階に入っている。霊気操作の説明はできるか?」

「操作の説明? できるよ。操作は体に取り込んだ霊気を全身で自由に使うことでしょ?」

「そうだ。一般的にはそう知られている。だが、霊気操作にはまだその先がある。それを今からアリスに教える。見ていろ」


 レオーネは木刀を持って、大きな岩の前に立つ。そして、そのまま岩に木刀を振り下ろした。


「うそ……」


 岩が真っ二つに斬れた。切断面はとっても綺麗。断面に歪みは全くない。

 木刀が折れると思ったのに。やっぱりレオーネはとっても強い。


「よく見ろ」

「え?」


 レオーネは切断した岩のその先を指差している。

 その先を見るが、何もない。ただ、地面に大きな剣の傷が見えなくなるまで続いてるだけで……

 え? 木刀ってこんなに威力あった?


「何をしたの?」

「霊気の刃を飛ばした。今は軽く霊気を飛ばしただけだ。ある程度本気でやれば、この小さな岩山ぐらいなら切断できるぞ」

「ひょっとして、レオーネが世界最強?」


 私の質問に少し驚いた顔をすると、レオーネは嬉しそうに言う。


「私が最強か、面白いことを言う。今のアリスには私が一番強いように見えるだろう。だがな、この世界には私より強い者が沢山いるぞ」


 レオーネにより強い人? そんな人、本当にいるの?

 私は信じられないという顔になった。


「例えば、ティノア龍皇国の六龍星ろくりゅうせいと呼ばれる六人の将軍は全員私より強い。この世界で一番強い剣士はやはり、ロンガル帝国の剣聖だな」

「そんなにいるの?」

「ああ。沢山いる。だが、お前は最強の騎士になるんだろ? それに私の弟子なんだ。誰よりも強くなってもらなわないと困るぞ」

「分かってる! 私は最強の騎士になるもん!」

「期待しているぞ」


 レオーネが私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。レオーネに期待されていると言われて、私はすごく嬉しかった。


 「話を戻すぞ。霊気操作の先、それは霊気の放出だ。霊気の流入ができるならば、霊気を刃に乗せて、攻撃に変換して放出できると私は考えた。今から、霊気放出をアリスに教える」

「はい!」



 私たちは稽古を終えて、村に帰ってきた。


「レオーネ、あの人たちは何?」


 村の中に甲冑を身につけた人たちが何十人もいる。村人の皆よりも多いかもしれない。

 爽やかな笑顔を向けて、私たちに近づく人がいる。私たちはその人の顔を見て、直ぐに跪いた。


「だから、跪くなよ。レオーネ、アリステリア、立ってくれ」


 私たちの前に現れたのはライ王子だ。


「この前は大変だったな。念のために、私が使える兵を連れてきた。しばらくこの兵たちを置いておく」

「ありがとうございます。安心できます」

「ミーアは元気になったか? 魔眼を使ったと聞いたが」

「まだ封印の途中です。もう少しかと思います」

「そうか……」

「見ていきますか?」

「いや、やめておく。ミーアは私に見られたくないだろう」


 ライ王子はとても心配そう。私は胸がズキッと痛んだ。私は罪悪感を感じた。


「アリステリア、お前のせいじゃない。レオーネから話は聞いている。よく、民を守ってくれた。王子として感謝する」


 ライ王子は私に小さくお辞儀をした。

 王族が一般人の私にお辞儀をすることが大変なことだって、私でも分かる。

 私は慌てて答える。


「ミーアが私を守ってくれました! 私が弱かったから……」

「それはお前がミーアと仲良くしてくれていたからだ。ミーアは命を懸けてお前を守りたいと思ったのだろう。あの時、私が言った言葉を守ってくれていたようだな。ありがとう」


 またライ王子にお辞儀をされる。私は困って、黙りになってしまった。ようやくお辞儀を止めてくれたライ王子に私は頭を撫でられる。

 私はずっと困り顔だった。


 ライ王子がレオーネを見て言う。


「レオーネ、お前に話があったんだ。家に上げてくれるか?」

「構いませんが、小さいですよ」

「いい。何度も来たことがあるだろう。慣れている」

「そうでしたね」


 ライ王子とレオーネは軽く笑い合って、家の中に入る。私は二人の後ろに続いて家へ入った。



 ライ王子と私たちは机を挟んで座って、私はレオーネの横に座っていた。

 ライ王子が話を始める。


「話というのは、四ヶ国武術大会クオンナディアのことだ。開催は約一ヶ月後になった。それと、安心してくれ。ミーアは出場しなくていい。父上が認めてくれた」

「そうですか、良かったです。ありがとうございます」


 私もそれを聞いて、ホッとした。


「考えたんだが…… 四ヶ国武術大会クオンナディアの会場にミーアを連れていくべきじゃないと思う。父上の視界に入れない方が良い気がする。レオーネはどう思う?」

「そうですね。その方がいいでしょう。しかし、この村にミーアだけを置いておくのは少し不安な気もします。何もないとは思うんですが…」

「私が連れてきた兵を四ヶ国武術大会クオンナディア中も使ってくれたら良い。これだけ兵士がいれば問題ないだろう」

「はい、充分過ぎるくらいです。ありがとうございます」


 もちろん私もミーアの側にいる。でも、レオーネの戦いも見たい気がする。


四ヶ国武術大会クオンナディアのことだが、我が国以外の出場する三ヶ国は分かっているな?」

「はい。ベオグラード王国、ヨルガム王国、ダキア帝国です」

「そうだ。今回の四ヶ国武術大会クオンナディアにはお前より強い者は出場しない。ダキアの三神剣さんじんけんは出ないし、他の二国からも有名な剣士は出ない」

「そうですか。すると、今回の四ヶ国武術大会クオンナディアは周辺諸国同士の示威行動じいこうどうにならないわけですね」

「おそらく他の理由があるはずだ。だが、父上は何を考えているんだ? ダキア帝国と国交を結ぶなんて……」


 ライ王子は頭を抱えた。

 二人の話は難しすぎて、意味が分かんない。もっと私にも分かる会話をして欲しい。


 ライ王子が私の顔を見て言う。


「アリステリア、ごめんな。話がちょっと難しかった。お前は心配する必要はないぞ」

「私だって少しぐらい話は分かりました。レオーネより強い人が出ないってことですよね?」


 私は馬鹿にされた気がして、口調にイラッとした感じが出てしまった。


 パチン!


 レオーネに頭を叩かれた。

 私は痛くて、頭を押さえる。


「失礼しました。アリスがライ様に失礼な言い方をしました」

「いや、気にしてない。レオーネ、アリステリアの頭を殴ってやるな」


 私のことを見て、ライ王子はとても笑っていた。

 どうして笑ったんだろう? 私、そんなに面白い?


「レオーネ、でも油断はするな。お前より強い者は出ないが、それでも強者だ。それに、四ヶ国武術大会クオンナディアには十六人出場すると聞いている。決勝まで戦うと、必ず四人と戦うことになる。きっとお前でも疲れるはずだ」

「確かにそうですね。頭に入れておきます」


 ライ王子は席から立つ。


「そろそろ帰る。兵は置いていくから、好きに使って良いからな。兵糧も用意してあるから、食料のことは気にしなくて良いぞ」

「本当に助かります。ありがとうございます」


 ようやく帰ってくれる。

 ライ王子に会うのは二回目だけど、なんだか緊張して、背筋が伸びる。だから、少し苦手かも。


 ライ王子が私を見て、立ち止まった。


「アリステリア、お前ボロボロだな。女の子なんだから、少し服に気を遣ったらどうだ?」


 そんなことを言われても、レオーネとの稽古の後だから仕方ない。傷はレオーネの精霊魔術で治してもらったけど、服は綺麗にできないから、すごく汚れている。

 偉い人に会う格好ではないよね。でも、女の子なんだからとか、大きなお世話。

 私はちょっとだけ顔を膨らませる。


 それに気づいて、ライ王子はまた笑って言う。


「お前は可愛いからな。服で飾る必要もない。失礼した」


 私が可愛い?

 そう言われると、嫌な気はしない。可愛い服は今もあんまり好きじゃないけど、自分の容姿を褒められるのは、とっても嬉しい。


「アリステリア、私もアリスと呼んでいいか?」

「いいですよ。アリスって、呼んでください。私もそっちの方がいいです!」

「分かった。これからアリスと呼ぼう。レオーネ、アリス、またな」


 私とレオーネはライ王子が見えなくなるまで見送りした。








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