第29話 もっと強くなりたい


 目を覚ますと、レオーネの家の中だった。家の中は明るくて、窓から外を見ると、もう太陽が昇っている。

 家の中には私一人だけだった。レオーネがいない。

 あの後、どうなったんだろう?


 そう言えば、私の体に傷がない。それに痛みもない。ちょっと体が重たい気はするけど。

 きっとミーアが治してくれた。気を失う直前に、ミーアが治療の魔法を私にかけてくれたことを覚えている。


 私はレオーネたちを探すために外へ出た。取り敢えず、村の中央まで歩こうと思う。


 あの日が嘘のように、村人たちはいつも通りに農作業をしていた。

 私は村人の一人に声をかける。


「ねぇ、レオーネたち知らない?」

「レオーネ様かい? って、アリスちゃん、あんた大丈夫か? 三日も寝てたじゃないか」

「大丈夫だよ。平気、平気」

「そうかい、良かった。アリスちゃん、ありがとう。アリスちゃんたちのお陰で助かったよ」


 私のもとに村人たちが集まってきた。皆から感謝の言葉を次々に言われる。

 皆、レオーネとミーアの居場所を知らないみたいだった。私は皆と少しだけ話をして別れた。


 三日も寝ていたなんて気がつかなかった。たしかにすごくお腹が空いている。

 皆から何か食べ物を貰えば良かったなと後悔したけど、村の皆が無事だと確認できて良かった。皆から聞いた話によると、クリストフさんとエマさん、他の剣士たちも無事みたい。

 でも、レオーネたちの居場所を知っている人は誰もいなかった。


 私は村中を探し回った。探していないのは、いつも魔法の練習をしている荒地だけ。

 そんなところにいるのかなと疑問に思いつつ行くと、ゼルスさんがいた。

 ゼルスさんは辺りを見回して前に進むと、姿を消した。遠くから見ていた私には気がつかなかったみたい。


「いなくなっちゃった……」


 私はゼルスさんが消えた場所まで行く。


「ここで消えたよね?」


 ゼルスさんが消えた場所へと右手を伸ばす。すると、私の右手が消えた。驚いて直ぐに戻す。手を見るがなんともない。

 もしかして……

 私は前に進んだ。

 すると、荒地の奥に小さな小屋が見えた。

 私は小屋まで走って、ドアを開ける。


「ゼルス、つけられたな?」


 小屋の中にはレオーネ、ゼルスさん、そして、苦しそうな顔で眠っているミーアがいた。


「ミーア!」


 私はミーアに駆け寄ろうとすると、レオーネに止められた。


「帰るぞ」

「なにするの! ミーアの側にいさせてよ!」

「アリス、お前がいても無駄だ。ミーアに気を遣わせるだけになる」

「でも……」


 問答無用で私はレオーネの腕に抱き抱えられる。バタバタするけど、抵抗にならなかった。


 ミーアが目を少し開けて息を切らしながら言う。


「アリス…… わたくしは…… 大丈夫ですわ。気にしないで…… 下さい」

「ミーア、すごく辛そうだよ!」


 ミーアの額には汗が浮かび、顔も青白い。それにミーアの体が黄色く光っているようにも見える。


「グゥ……」


 黄色の光が赤い光へと変わり、赤い光の放出が激しくなった。ミーアは苦しい顔になりながら体を丸めて、赤い光を抑え込もうとしているみたい。


「ミーア!」


 レオーネはミーアを無視するように私を抱えて、小屋を出た。そして、そのまま家まで歩いて行く。


「離してよ! ミーアの側にいさせて!」

「お前が側にいても変わらん!!」


 私は思わず口を閉じた。レオーネに初めて怒鳴られたからだ。


「すまん。ミーアが苦しんでいるのは私のせいだ」

「どうして?」

「まさかラルヴァが村を直接襲うとは思わなかった。アリス、お前にも怖い思いをさせてしまった」

「違う。それはレオーネのせいじゃない。悪いのはラルヴァだよ」

「だが……」

「謝らないで。でも、ミーアはどうしたの? 様子がおかしいよ。あの光はなに? レオーネ、教えて!」


 家に着いて、庭にある木椅子に私は座らされた。レオーネも私の横に座り、話を始める、


「アリス、お前にはあの光が見えたんだな?」

「うん、見えたよ。黄色と赤色の光」

「私には見えないが、黄色の光が妖精の光で、赤の光がラーナの魔力だ」

「ラーナの魔力? 妖精はミーアと契約した妖精のことだと思うけど、ラーナってどういうこと? ラーナって昔の人だよね?」

「ミーアから少し話を聞いたんだな。私も全てを理解しているわけじゃない。ミーアから聞いただけだ。ミーアの魂にはラーナの魂が刻まれているらしい。破滅の魔眼を魔眼を使うと、ラーナの魂がミーアの体を支配しよう動き出すみたいだ」

「私、そんな話聞いてなかった」

「お前にはラーナのことを知られたくなかったのかもしれんな」


 私にも言って欲しかった。私に言ってくれたら何かできたかもしれないのに。

 でも、本当に何かできた?


「ミーアは大丈夫なの?」

「分からん。だが、ミーアが今、妖精と一緒に封印をかけ直しているところだ。私たちは信じるしかない」

「そんな…… 私は何もできないの?」

「ああ。我慢して待て」


 レオーネも我慢をしていた。歯を食いしばっているのが見える。


 ミーアが大変なことになったのは私のせいだ。私があの戦いで役に立たなかったから。ミーアに助けてもらってばっかりだった。

 強くなるって誓ったのに。全然強くなってない。私はまた守られたんだ。

 ――悔しいよ。


 目が熱くて、熱くて、どんどん視界が水浸しになっていく。何度も拭くけど、視界の水はなくならない。


「レオーネ」

「何だ?」

「私、今のままじゃ駄目。今のままだと兄様を亡くした時と何も変わってない。私、もっと強くなりたい。私をもっと強くして」

「アリス、お前は子どもにしては十分強い方だぞ?」

「全然強くない! 子どもとか関係ないよ。私は皆を守れる力が欲しい」

「…… 本気か? 辛くなるぞ?」

「良いよ。強くなれるなら」


 レオーネが頷いたのを見て、私は自分の涙を拭く。

 こんな時に泣いているのは駄目だ。


 私はもう一度強くなる決意を固めた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る