第22話 彷徨いの森
手入れがされているみたいに綺麗な草原の中を私たちは歩いていた。私たちは草原の奥に見えるあの大きな森を目指さないといけない。その森は
最初は草原の中も気持ち良いものだと思っていたが、この風景がずっと続いていると、気分も沈んでくる。
ダラダラと歩く私を見て、レオーネが言う。
「最初の勢いはどうした? 彷徨いの森は近いぞ」
「近いって言うけど、私たちずっと草の中を歩いているよ」
近いってレオーネは言うけど、ずっと歩いているのに奥に広がる森に全然近づかない。
私はムスッとした顔で歩きながら、レオーネに教えてもらった彷徨いの森のことについて思い出す。
アルフヘイム精霊王国は交易都市国家マディール、ヨルガム王国、ガルリオーザ王国に囲まれている小さな国。その三つの国とアルフヘイムの間を挟むようにあるのが彷徨いの森。
だから、彷徨いの森はとても大きくてアルフヘイムを囲むようにある。
彷徨いの森と接している三ヶ国では、一般の人が彷徨いの森に近づかないように強く言われているみたい。精霊の読み手がいないと、森の中を一生迷い続けることになるらしい。
でも、私たちは心配ない。レオーネが精霊の読み手だから。精霊の読み手は精霊の声を心で聞こえる人のこと。レオーネに教えてもらったけど、エルフは生まれた瞬間から精霊の読み手になるんだって。
「アリス、彷徨いの森へもう直ぐ入る。ユンナーの目薬を注せ」
「え? 目薬?」
「いいから、注せ」
歩くのを止められ、私は言われた通りにする。
「私と手を繋げ。驚くといけない」
「どういうこと?」
どうしてかはよく分からないけど、私はレオーネと手を繋いで一緒に歩いた。
「何これ? え?」
目の前の風景がグニャンと変化する。今まで草原だった場所が変化して、木々が見え始めた。地面の草は失くなって、湿った土へと変化した。
気が付けば、私は森の中だった。
「ここが彷徨いの森だ」
「うわぁ…… うっ!」
私は直ぐに目を閉じた。気持ち悪くなったからだ。
うっすらと目を開けるが、やっぱり見える。森の中を精霊が埋め尽くしていた。
木の枝や地面、私の腕やレオーネの肩にまで精霊が乗っかっている。手で払いたかったけど、私は直ぐに精霊を腕から優しく下ろした。
「アリス、大丈夫か?」
「ちょっと精霊が多すぎて。私、目を開けているのは無理かも」
「そうか。アリスは目を閉じてろ。私が手を繋いでやる」
「え? 私、恥ずかしいよ」
「気にするな。彷徨いの森は直ぐに抜けられる。それまでの辛抱だ」
「じゃあ、お願いします」
私はレオーネと手を繋いで一緒に歩く。
前から思ってたけど、レオーネの手って温かいし柔らかい。剣の達人だから、もっと固い手をしてると思ってた。レオーネの手は母さまに似ている。
なんだか嬉しくて、私の胸が温かくなった。
「アリス、ご機嫌だな。嬉しそうだぞ?」
「そ、そんなことないよ。私は普通だよ!」
ちょっと嬉しくなったから頬が緩んだのかもしれない。
歩きながら、私は気になっていることを質問する。
「どうしてこの森はこんなにも精霊が多いの?」
「精霊は私たちエルフと親和性が高い存在だ。精霊たちは私たちを守るためにこの森に存在している」
「しんわせい?」
「仲良しということだ」
「へー、エルフと精霊って仲良しなんだ。だから、エルフは精霊の声が聞こえるんだね」
「まぁ、そうだな。だが、エルフと精霊が仲が良いのはちゃんとした理由がある。アリスはエルフ王アールヴを知っているか?」
名前も聞いたことがなかったので、私はブンブンと首を横に何度も振る。
「アールヴはエルフの始祖王と呼ばれていて、妖精神アルタニウスから生まれた存在だ。そして――」
「ちょっと待って! アルタニウスって女の人だったの?」
レオーネの説明の途中で私は質問をした。
「お前はまたバカな質問を…… アルタニウスは神だ。私たち人間とは異なる存在だから、私たちのように女、男の区別はない」
「そうなんだ。神って凄いんだね」
「…… 説明を続けるぞ。アルタニウスはアールブ以外にスクルという女を産んだ。そして、アールブとスクルは結婚して沢山の子どもを授かった。ここからエルフの歴史が始まる」
「あれ? 精霊が出てこないよ」
「焦るな。今から説明をする。妖精神アルタニウスは精霊七礎も産んだ。私たちエルフと精霊は同じ存在から産まれた。だから、エルフと精霊は血縁的にも関係性が深いと伝えられている。分かったか?」
「ええっと…… レオーネと精霊は家族ってことだね?」
「…… もうその理解でいい」
「ふーん、分かった。じゃあ、妖精って何なの? 妖精もエルフたちと関係があるの?」
「それは私にも分からない。私が分かるのは簡単な知識ぐらいだ。だが、妖精と関わっている者を知っている。アリスと年頃は変わらないはずだ。仲良くなれるだろう」
「そっか。じゃあ、その子に聞いてみるね」
すると、色んな人たちの声が聞こえてきた。
まるで森から町へ移動をしたみたい。
「目を開けてみろ」
「うん」
私は目を開けた。
美しいと思った。
白い石で造れた建物が多くて上品な雰囲気。中には木造の建物もあった。
マディールは人が沢山いて驚いたけど、この町は建物が綺麗で驚いた。
「美しいだろ? ここがアルフヘイムの都ディニタスだ」
「ディニタス…… でも、待って! どうして私たちもうアルフヘイムにいるの? さっきまで彷徨いの森にいたのに」
「ああ、それか。足元を見てみろ」
足元を見ると、地面には星形のような模様があった。その模様が少し光っているようにも見える。
「これは魔法だ。彷徨いの森にも同じ模様がある。それを踏むと、一瞬でアルフヘイムに移動ができる」
「凄い! エルフの人って皆、魔法が使えるの?」
「いや、限られた者だけだ。この魔法はエルフのみに反応する仕組みとなっている。マディールからアルフヘイムへ入るにはこの魔法を利用しなければならない。もちろんマディールへ出るのにもこの魔法を使う。あれを見てみろ」
レオーネが指差した方向を見る。
そこには宝石みたいとても美しい城があった。あのお城だけ、宝石みたいにピカピカとしている。
「あの城の名前はクレール城。あの城には現在の王カリギュラスが住んでいる。数日したら、私と共にあの城へ行って、王に会うぞ」
「え? 私がエルフの王さまと会うの?」
「ああ。お前は人族だからな。顔を見たいそうだ」
レオーネが嫌そうな顔をしているように見えた。もしかしたら、レオーネはエルフの王さまが嫌いなのかもしれない。
それにしてもエルフは綺麗な女性やカッコいい男性が多い。
何だろう?
周りのエルフたちが私のことをじっと見ている気がする。何だか嫌な感じ。
「レオーネ、皆が見てる」
「人族のアリスが珍しいみたいだ。人族がアルフヘイムへ来ることは滅多にないからな。私の村はディニタスから近い。目はどうだ?」
そう言えば、精霊が少なくなっている。いつもと変わらないくらい。
「大丈夫。ましになったよ」
「そうか。私の村まで直ぐだ。行くぞ」
私たちはレオーネの村へ向かった。
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