第24話

アレストの誕生日まであと3ヶ月の日からだっただろうか。ルイスは一日のほとんどを眠って過ごすようになった。

「気を張っていたら起きれるのだけれど」

「楽にしていればいいさ」

「ごめんね」

「……薬を飲もうか?」

アレストが白い粉をルイスに渡そうとする。

「ううん、いいわ。あまり効かなくなってきているみたいだし」

「そうか……」

ルイスが記憶がおかしくなったと言った時から与えている薬。それが効かないらしい。

(当然だ)

ただの小麦粉を袋に入れただけなのだから。

(砂時計の記憶障がいをなんとかできる薬があるのならばこんな苦労はしていない)

「……本当に治るのかしら」

「大丈夫さ。信じてくれよ、相棒」

「そうね。あんたの言うことだもの」

アレストは、ふっと口角を上げる。

「あぁ。今はゆっくり眠っていてくれ」

「わかったわ……ええと、ア……」

「アレストだ。あんたはルイスだぜ」

「そうだったわね。アレスト。……あら?」

ルイスが部屋の窓の近くにある真っ赤な砂時計を見る。

「砂時計……?」

「あっ」

しまった。実験の記憶は封じたし砂時計に関する記憶が曖昧になっているとはいえ、そのものを見てしまったら思い出すかもしれない。ルイスが目覚めたり眠ったりする時間をはかるために使い始めたものだ。しまうのを忘れていた。ルイスが目覚める前にひっくり返してそのままだった。

ルイスがベッドからゆっくりと立ち上がって窓に向かう。そして砂時計を手に取ってひっくり返してしまった。

「相棒、何をしているんだ?あ、砂時計をひっくり返しちまったのか?せっかく時間をはかっていたのに」

「ごめん、我慢できなくて」

「ふふ、堪え性がないねェ……」

「そうじゃないの。砂時計がかわいそうで思わず」

「どういうことだ?」

「この砂時計は3分を刻むでしょう?終わったらまたひっくり返して3分を刻む」

「そんなの当然だろう?何度もひっくり返して使うんだからさ」

「外から力をかけない限り、砂時計は壊れないでしょう?だから、永遠になってしまうわ。この砂時計は3分を永遠に繰り返す……。そんなの、かわいそうじゃない?」

「……永遠が、かわいそう?」

「分からない?」

「……俺には、よく分からない」


俺は、永遠を刻む砂時計を壊してはいけないと言われているから。

そんなことを初めて言われたら、戸惑っちまう。


「あ、もうすぐ3分。早いわね」


「……まだだ。

最後まで落ちないと、

正確な時間がはかれないだろ?」


アレストがルイスの腕を掴む。


「もう、アレスト。私の話聞いてた?」


ルイスはそう柔らかく笑い……また意識を手放した。

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