第22話

〜夜 食堂〜


「メルヴィル、好き嫌いは良くないぞ。魚の骨が取れないのか?」

「チッ……ベノワット、俺はもう腹がいっぱいだ」

「メル!私が取ってあげるから全部食べなさい」

「なっ!よせ!もう食えんと言っているだろう!」

他愛のない会話。いつもの食堂。ルイスはアンジェたちと食事を楽しんでいた。

「ふふふ……。あっ。そうだ、さっきリ……」

(あら?)

言いかけたルイスが口元に手を当てる。

(リ……リヒ……ええと)

(思い出せない?名前が?つい30分前に会ったはずなのに)

(何を話したのかも分からないわ)

「どうしたのよ?ルイス。具合が悪いの?」

酷くなっていると思っていたが、これほどまでとは。ルイスは無理やり笑顔を作って

「そうね、少し頭が痛くなってきたわ。……私、早めに部屋に戻るわね」

と、食堂を後にした。


(部屋に薬があったはず)

(それを飲めば多少は良くなるってア……アレ……?)

「だれ、だっけ……」


「と、とにかくこっちに行けば部屋があるわ。そこに薬が」


ルイスが部屋を見つけたときだった。急に視界が真っ暗になったのだ。

「っ!?」

前のめりに倒れる。

「いたっ……な、なによこれ!?」

目は見えないが、指から砂の感触がする。ザラザラとまとまわりついて離れない。ルイスの汗と混ざり、重くなっていく。

「……い、いや……なんで……」

血じゃなくて砂がでているの?



〜アレストの部屋〜


「相棒」

「相棒、起きてくれよ」

「なぁ……」

部屋の前で倒れていたルイスを見たアレストは彼女をベッドに寝かせて呼びかける。

倒れた時に擦りむいたところからは砂がでている。

「……」

まだ早いはずだ。あと4ヶ月は砂時計の砂は落ちない。なのに、何故。彼女は意識を失ったんだ。

「……あんたの名前、分からない……だから呼べない……あんたが教えてくれないと、俺はあんたの名前が分からない……」

アレストがルイスの真っ黒な髪を撫でる。

「起きてくれよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る