第21話

〜夜 アレストの部屋〜


「……そこでメルヴィルが転んじゃったのよ。ベノワットが受け止めていなかったら怪我していたかもしれないわ」

昼の任務のことを話すルイス。アレストは楽しそうに話す彼女をじっと見つめていた。

「でもアンジェが『メルってお姫様みたいね!』って言うものだから、メルヴィルが怒り出して……ふふふ!

……あ、ごめん。アレストは外に出られないのに。こんな話、つまらないわよね」

「そんなことはないさ。あんたが楽しそうだと俺も嬉しい」

目を細めて笑うアレスト。ルイスは「そうなの?」と首を傾げた。

「……ねぇ、今夜はもうリヒターが部屋に入って来ることはない?」

ルイスがアレストに囁く。ドキリとする。

「ないぜ。あとは寝るだけだとさっき言ったばかりだからねェ……。どうしたんだ?従者サンに見られたくないことでも、するのか?ふふふ……」

気取った口調だが、アレストの指は緊張で震えている。

「聞かれたくないことよ」

「えっっっ!?!?い、一体何を」

「そんなに驚くことじゃないわよ。夜の討伐のこと」

「なんだよ。それか」

アレストがため息をつく。

「何だと思ったのよ。……最近夜の討伐に行っていないから、そろそろまた行こうと思っているのよ。アレストも、く、来る?」

「……」

アレストが腕を組む。

「夜の討伐は元々従者サンに依頼されていたんだろう?従者サンはなんて言っていたんだ?」

「リヒターは病気が治る前までは依頼しないと言っていたわ」

「じゃあそれに従おうか」

「……らしくないわね?アレストなら『夜遊びに行くならば従者サンの言うことを聞かないくらいがちょうどいいぜ!』くらい言うと思ったけれど」

「俺だっていろいろなときがあるさ」

苦笑。その複雑な笑みに、ルイスはさらに怪訝な顔をする。

「今はあんたの安全が一番だからな」




ルイスに砂時計を入れてから何ヶ月か過ぎた。ここまで良いことはあったが、悪いことはなかった。

(砂時計が体にどう影響するか……)

その観察をしているアレストは毎日気が気でなかったが。

しかし、半年が過ぎたある日。

「いたた……」

訓練場でルイスが怪我をしたのだ。メルヴィルの訓練用剣が腕に当たってしまった。

「すまん。大丈夫か?」

「大丈夫よこれくらい。気にしないで。良くあることじゃない」

怪我自体はよくあることだったが、ルイスが気になったのは、『意識が一瞬飛んだ』ことだった。

(疲れているのかしら)

さらに1ヶ月後、今度は騎士団の仲間の名前が曖昧になった。2文字目までは出るのだが、名前の全てを思い出すことができない。

(アンジェやメルヴィル、ベノワット、アレストは毎日顔を見て話しているから分かるのに……たまに会う仲間の名前が分からないわ)

思い出そうとしても思い出せないのだ。

(変ね。体というよりも頭の不調みたい)

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