第19話

〜夜 アレストの部屋〜


真っ黒な部屋のベッドに真っ黒な髪の女性が寝かされている。アレストは彼女の髪を指で掬った。

「……ルイス」

(このまま、目覚めないんじゃないか)

アレストの目が泳ぐ。

(『適合者』じゃなかった可能性もある、よな)

その場合は、もう死んでいることになる。

「すまない」

アレストはルイスを抱き上げて、背中の服をめくった。

「っ……!」

真っ赤な砂時計の模様だ。アレストの物と同じ。

(……入っているのか)

(あぁ、成功しちまった)

(俺はあんたを所有者にしちまったんだ)

恐ろしくなって、ベッドに寝かせようと背中の服を戻した時だった。

「ん……あら?」

ルイスが目を覚ましたのだ。

「ここは……アレストの部屋?」

「あ、あぁ。相棒、体はなんともないのか?」

呑気に伸びをしているルイスに言う。

「昼間に賊に切られたところ?全然痛くないわ」

「そ、そうか。それなら良かった」

「あの後、私どうなったのかしら?」

「ええと……実はあんたが王宮に戻る途中で倒れちまって、俺がここに運んできたんだ。頭でも打ったかと心配したが、元気そうで安心したぜ」

「頭……?打ったかしら。あまり覚えていないわ……歩けていた気がするけれど……」

ルイスが首を傾げる。

「混乱しているんだろう。無理もないな」

「いえ、私はもう元気よ」

「いや……実はあんたの病気が酷くなっちまったんだ」

「え?」

「……少なくとも1年間は安静にしていないといけない。絶対に怪我や病気をしてはいけない。あ、精神に負担がかかることも避けてくれ」

「安静にしている?そうしたら治るの?」

「そうさ。1年だ」

「……ちょっと信じられないわ」

(そりゃあそうだろうな。口実だし)

ルイスの砂時計が割れたらまずいから、王宮から出さないための嘘だ。

「常に俺の目の届くところにいてくれ。何かあったときに白魔法をかけられるように」

アレストがルイスの瞳を見つめる。

「……」

「今夜からはここで寝て、飯も俺と同じ部屋で、それから……」

「アレスト、たしかに私は病弱だって言ったわ」

「あ、あぁ。そうなんだろう?だからだ。あんたの病気が酷くなっ……」

アレストの言葉が途切れる。ルイスの顔を見て、目を見開いた。

「大丈夫よ。アレスト。心配しないで!」


「私、今すっごく体が軽いのよ!今ならなんでも出来そう!きっと病気が治ったのね!」


彼女は見たことの無いくらいの満面の笑みを浮かべていた。

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