第18話
「なぁ、本当に傷は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。白魔法使ってくれたのアレストじゃない」
「……それはそうだが、俺の白魔力は弱いし……」
「いいから。そろそろ帰りましょう?そろそろバレると思うわよ。ヴァンス様に怒られるの、嫌でしょう?」
「……いや、最後に行きたい場所があるんだ」
アレストがターバンで目元を隠す。
「こっちだ。着いてきてくれ」
ルイスが隣を歩いている。
「こっち?人気のないところね」
(やるんだ……今しかない……)
アレストはルイスの手に触れた。
「な、何?どうしたのよ?」
「……相棒」
穏やかな白い光がルイスを包み込んだ。
「あ……」
ルイスの目が閉じて、手足の力が抜ける。アレストはそれを担いで、王宮に向かった。
〜王宮〜
「あ、アレスト!?」
王宮に入った途端、ベノワットが駆けて来た。
「どうしたんだその格好……まるで平民……いや、それよりもルイスが!倒れたのか!?」
「そうさ。傷を負ってしまってねェ……。とりあえず俺の白魔法で眠らせて担いで来たのさ。今から地下で治療する」
「え?アレスト、そんなに強い回復魔法が使えたか……?」
ベノワットが怪訝な顔をする。
「大丈夫さ。そんなに深い傷じゃなかった。何かあったら報告するさ」
「あぁ、分かった。軍師を亡くすなんてあってはならないからな」
「ふふふ……そうだねェ」
〜地下〜
真っ白な部屋の扉を開けると、リヒターが待っていた。同じ部屋に寝かされているのはルイスの母親だ。
「……連れてきたぜ」
アレストはルイスを乱暴に投げ捨てる。
「ぼっちゃん……?」
「くくく、起きないねェ。白魔法が上手くいったか?」
「……すぐに取り掛かります。貴方は外へ」
「あぁ」
アレストが頷き、部屋の外に出る。椅子に座って息をついた。
「…スト、アレスト」
「……相棒?」
聞き慣れた声に顔を上げると、扉の丸い窓から中の様子が見えた。
「アレスト!!」
相棒が中から窓を叩いているのが見える。
「私を騙したのね!最初から私とお母様をこうするつもりだったんでしょう!」
「砂時計の創り方なんて聞いて!『量産』するつもりだったのね!!あなたも砂時計を肯定するの!?」
(違う!)
アレストが思わず立ち上がる。しかし、自分の口から出たのは正反対の言葉だった。
「そうさ。くっくくく……気づかなかったのか?」
「あんたを利用するために近づいたのさ。まさか本当に俺に惚れちまったのか?哀れだねェ……」
「死ぬかもしれない実験なんて、自分で試すわけがないだろう?何人もいる許嫁1人いなくなったところで心は痛まないね」
(違う!俺は、こんなことを言いたいんじゃない!!)
「安心しな。痛みはすぐに忘れる。今日の実験のことも忘れる魔法をかけてやるさ。俺からの優しさだぜ」
(優しさなんかじゃない!)
「アレスト……!!あんたなんて、大嫌い!!!!!!!!」
相棒が部屋の奥に引っ張られる。リヒターの腕だ。すぐに姿が見えなくなった。アレストはその場に崩れ落ちる。
(俺は……)
(人間を捨てる覚悟を……)
「はぁーっ、ぜえっ、ぜぇっ……」
呼吸が上手くできない。顔を真っ青にして頭を抱える。瞳孔が開き、指が震えて止まらない。
「やめて!!やめて!!お母様を返して!!痛い!痛い!!痛い!!たすけて!アレスト!アレスト!!」
相棒の悲鳴にゾッとする。アレストはガタガタ震えることしかできなかった。
「あいぼ……相棒……」
必死に耳を塞ぎ、窓から目を逸らすアレスト。
見ていられなくて目を閉じる。それでも相棒の悲鳴と彼女の母親の皮膚を焼く音は頭から離れない。
(俺は非情にならなきゃいけない……のに……)
(こんなに後悔している!胸が張り裂けそうだ!!)
(相棒が痛いと俺も痛いんだ!!もう、もうやめてくれ!!)
(自分で決めたのに、恐ろしくてたまらない……嫌だ……嫌だ……)
「やめてくれ……もう、嫌だ……こんなこと……俺があんたにしたいわけ……ないだろう……」
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