第17話

〜昼 討伐後〜


「ルイス!ご飯を食べに行きましょう?」

「そうね、アンジェ。あら?ベノワット、メルヴィルは?」

「こっちにいるぞ。ほら、行こう」

「……俺は一人でいい」

「もう、メル!そんなこと言わないで。行くわよ!」

「ふふっ。アンジェは強引ね」

「だってメルが……あっ、また逃げようとしているわ!ベノワット、担いで!」

「全く君は……」

「む、むぅ……」

ルイスはすっかり王宮騎士団に馴染んでいた。

(もうすぐここに来て1年ね)

春の香り。シャフマには四季はないが、フートテチでは綺麗な花が咲くという。

(こんな生活も悪くないわ。シャフマは思ったよりも平和だし)

(でも平和を続けるには、砂時計をなくさなくては)

(……根拠はないけれど、アレストとなら)


なんとかなる気がする。シャフマを救える気がする。


ルイスは一人頷いて王宮に向かうアンジェたちの背中を追った。




〜朝 アレストの部屋〜


「……」

アレストの誕生日だ。リヒターに伝えた日付は、今日。

「……相棒」

最後に会ったのは昨日の昼だから名前と顔が上手く思い出せない。だが、話したことは覚えている。ルイスがどれだけこの世界を愛しているのか、アレストのことを信じているのか。痛いほどに知っている。

(計画に狂いはない)

何度もイメージした。だが、耐えきれるかどうか分からない。砂時計は精神と直接結びついている。

(大丈夫、大丈夫さ)

自分に言い聞かせて、真っ黒な爪を見る。砂が一粒……。

「すまない、相棒……」



〜昼 中庭〜


「相棒」

花に水をやっていたルイスの隣にアレストが屈む。

「頼みがあるんだが、いいか?」

「何よ?改まって」

「今日、何の日か知っているか?」

「え?あ!そっか、あんたの誕生日だったわね!」

「そうさ。なぁ、相棒……俺と一緒に外に出てくれないか?遊びに行きたいのさ」

「はぁ?ダメよ。リヒターに外出は禁止って言われているでしょう?よ、夜は討伐だし本当はいけないけど、暗くて顔は見えないから渋々連れて行っているだけだし……昼は絶対ダメ!」

「そこをなんとか。約束しよう。もう外に行こうなんて誘わないさ。俺は1回でいいから王宮の外で太陽を浴びたいのさ。誕生日だぜ?少しでいいから、連れ出してくれよ」

「……わ、分かったわよ!今日だけだからね!リヒターたちにも内緒よ!」

「ありがとう、相棒」

アレストが泣きそうな笑顔を作る。

「……早速着替えてくる。裏口で集合しようか」

「分かったわ。本当に今日だけよ?来年同じことを言っても許可しないから」


(来年……)


来年は、相棒に来るのだろうか。

アレストはぎゅっと拳を握って、頭を横に振った。

(リヒターに言っただろう、犠牲なんて気にしていられないと)



〜王宮近郊の街〜


「あんた、本当にギャンブルが弱いねェ」

「っ……」

「ギャハハ!!また俺の勝ちだぜ!」

アレストが破顔して喜ぶ。

「はぁ……悔しいわ」

「ふふふ、その顔が見たかったんだ」

満足そうに胸を張る。

(……さて)

(そろそろ頃合いだな)

(睡眠魔法を……)


「わっ!?泥棒!!!!」

賭博場の外で大声が聞こえた。反射的にルイスが立ち上がり、声のした方に駆ける。

「あ、相棒!?」

「『アレス』!!!手伝いなさい!!」

「!!!」

アレストがターバンで顔を隠しながら店を出る。

金の入った袋を持っていたのはアレストよりも少し年上の男だった。ルイスに剣を向けている。

「あ……」

アレストが息をのむ。

「返しなさい!」

ルイスの声が響いた。盗賊の男は袋を抱えたままアレストに突進する。

「っ!?」

「アレスト!!!」

不意打ちだ。驚いたアレストが思わず目を瞑った。

しかし、衝撃は来ない。

「……ハッ!」

ルイスがアレストを庇ったのだ。

「ル……」

「アレスト、私は大丈夫よ。少し切られただけ。こいつは素人だから心配ないわ」

そう言いながらもルイスの額には冷や汗が浮かんでいる。

「あんた……」

「王子だ!!!ころしてやる!!!」

男はアレストを狙っている。

「俺が生まれた理由は……お前の……お前の……!!!」

男が言い終わることはなかった。ルイスが賊を剣で打って気絶させたのだ。しかし、アレストには続きは分かってしまった。

(俺の……偽物か……)

砂時計の継承をして成り上がろうとした女がテキトーな男との子を王子と言うために作った偽の王子。その一人だったのだろう。

「最低な呪いめ」

アレストは低く呟いた。

「もう!昼間に堂々と盗みをやる盗賊なんかに怪我をさせられるなんて屈辱だわ!いたたた……」

「あ、相棒、大丈夫なのか!?し、しぬなよ!」

アレストがルイスの傷を見る。少し出血している。

「これくらい平気よ。でも……もし、私がしんでもあなたは生き残ってよね」

「え?」

「約束して、アレスト。あんたは普段は気取ってるし皮肉屋で嫌な奴だけど……ときどき危なっかしいから勝手にしにそうで不安になるのよ」

「……」

「しなないで、私がしんでも後を追おうなんて考えないで。アレスト、約束して」

「分かった。相棒、約束する。」

「もう、泣かないの。あんたいくつよ!」

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