第16話
「アレストぼっちゃん、それは本当ですか!?」
「あぁ。完全に砂時計の創り方が分かった」
「……その手順で創れば、時計を再現できる……!しかし、誰でも良いというわけではなさそうなんですね」
「『適合者』か。そこが問題だねェ……」
「1000年以上前からのシャフマ王国の民……。純血でないといけません。他の国の血が少しでも混ざっていると脆くなる」
「砂時計の砂や容器を創る魔法が古いシャフマのものだからだろう?そこをどうするか……」
「私が実験台になれれば良いのですが、生憎平民ですし出生が自分でも分からない以上危険かと思います」
リヒターが視線を落とす。
「ふむ……。純血の貴族なんて混血しまくったシャフマにはほとんどいないんじゃないか?」
「……メルヴィルとベノワットは、純血です」
アレストが眉を寄せる。
「ラパポーツとスティール、だったか」
「ぼっちゃん、名前を!」
「3時間前に会ったから覚えているさ。よくわからん会議でね」
ため息。
「そうだねェ。あの二人はたしかに王宮に仕える由緒正しい貴族だ。混血はしていないだろう。だが、しぬかもしれない実験だぜ?ラパポーツ公やスティール公が息子を失ったことで俺たちの実験を知ったらマズい。父上……国王ヴァンスがいる間は大丈夫だが、いなくなったら俺はアイツらとも仲良くしなくちゃならないのさ。そう言った意味でも、ね」
「そうですね……。アンジェは平民ですし、父親はアンジェのことが好きで一時も目を離しません。
テキトーな血では危険でしょうが、やはり私がやりましょうか」
リヒターが言うと、アレストは首を横に振った。
「ダメだ。失敗して砂時計を量産する訳にはいかない。犠牲は2人で十分なのさ。それにリヒター、あんたよりも適任者がいる」
「適任者?」
「相棒……ルイスとその母親さ。
砂時計の信仰が強いツザール村出身で、閉鎖的故にほとんど混血をしていない。俺なんかよりもずっとシャフマ王族の血が濃い。
……これ以上の適任者はいないだろう」
アレストが腕を組む。
「し、しかしぼっちゃん、ルイスがしぬかもしれないんですよ!?」
「そんなこと……」
アレストが目を泳がせる。しかしすぐにリヒターを真っ直ぐ見つめて
「そんなこと、気にしていられるか?シャフマ、いやこの大陸の未来がかかっているんだぜ?」
と、低く言った。
「……あんたがやれ、リヒター」
「!」
「できないなら逃げろ。今すぐにここから出て行け。他のやつにやらせる」
「……いえ、私がやります。私がルイスの体に母親の容器を入れ、寿命を差し出します」
「そうかよ……」
アレストの声は震えていた。
「別に寿命はあんたのものじゃなくてもいいんだぜ?俺の砂から1年出すことも技術的には可能なんだろう?」
「可能ではありますが、これから何が起きるか分からない以上、王子の時計には触らない方が良いかと。……大丈夫です。私はまだ何年も生きますよ」
「リヒター、信じているぜ」
「はい、この国の未来のために」
(あんたは勘違いをしている。砂時計を創る目的は……砂時計を壊すことだ。それはつまり、父上ヴァンスを裏切ることになる)
(だが……こいつはきっと父上の命を危険にさらさないためならば、国なんてどうでもいいと言う)
(だから、だ。だから言わない。言えないのさ)
アレストの服は真っ黒だ。リヒターが渡してくれた色は……そのまま、彼の腹を黒く染めていく。
〜夜 アレストの部屋〜
「アレスト、いるかしら?」
扉をノックする音。アレストは真っ赤な玉座から立ち上がった。扉を開けて、ふっと口角を上げる。
「相棒、コンバンハだな」
「こんばんは……。爪を塗りに……あら?」
アレストの爪は真っ黒に塗られていた。
「誰かに塗ってもらったの?」
「あぁ。従者サンが黒く塗ってくれたのさ」
「そう……服に合わせたのね」
「そういうことだ」
「ピアスは変えないの?」
ルイスがアレストの紫色のピアスに触れる。
「っ!」
ビクッと肩が震えた。恥ずかしくて目を逸らす。
「……ははは、これは俺の瞳の色だからな。希少なんだ」
本当は希少なんかではない。シャフマでは紫色の瞳の人なんてたくさんいる。ルイスの赤の瞳の方がずっと希少だ。
「うん、よく似合っているわよ。髪を下ろしたのも……」
「それはあんたが言っていただろう?髪を下ろした方が色男だって」
「そんな言い方はしていないわ。親しみやすくなると思ったのよ」
ルイスの頬が緩む。
「……ありがとう、相棒」
「え?いいわよ。思ったことを言っただけだし。ところで話って何?」
アレストはいつも通りルイスを部屋に入れた。
「もうすぐ俺の誕生日だ」
「あら、そうなの?いつ?」
「4月の中旬さ」
「もう4月だからあと数日ね。欲しい物を強請るつもり?」
「……」
アレストがルイスをじっと見つめる。
「生憎、俺は欲しいものは全て手に入っちまうからねェ……」
「???」
首を傾げるルイスに微笑む。
「手離したくないものしかないのさ」
「手離したくないもの?カツカレーの大盛り券とか?」
「うん、そんなところさ」
「アレストらしいわね」
「ふふふ、そうだろう?」
アレストが目を細める。
「……欲しい『もの』はないんだが、して欲しい『こと』はある。頼んでもいいか?」
「どんなことなのかによるわよ」
真剣な瞳。アレストは思わず目を逸らしてしまった。
「まぁまた近くなったら言うさ。当日までのお楽しみってわけさ」
手をヒラヒラさせておどける。
「……あまり無茶なことは聞けないわよ」
「あぁ、わかっているさ」
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