第7話

「教えて、アレスト。本当に砂時計は『実在』するの?貴方の中にあるの?」


「……!」


(そうか、こいつ『も』)


アレストの頭にカッと血が上る。

ルイスを部屋のベッドに突き飛ばす。

「いっ……」

「あんた、俺の子を孕みたいのか?」

「えっ……?」

「砂時計の話をするということはそういうことだろう?ははは」

「……ち、違うわ!私は『信仰』の話を」

「信仰?なんだよそれ。もっと興冷めだねェ……」

アレストの視線が射抜くようなものに変わる。普段のおどけた顔とは正反対だ。

「ははは、あんたも俺を神だと言うのかよ。偶然とはいえ、酒場で酔っているところを見たくせに。あれじゃあ足りないか?ならここで孕ませてやる。俺が『人間』だと理解らせてやるよ」

冷めた目をしたまま、アレストがルイスの上に跨って腕を強く掴む。

欲情ではない、愛でもない。だが、できる。できるのだ。彼は……人間だから。

「ダメ!!!!!それを『継承』しちゃいけないわ!!!」

「……!?」

アレストの力が緩む。

「絶対にダメ!!」

「ど、どういうことだ……あんたは何を知っている……」

「子を作っていないって聞いたから知っているかと思っていたのに……」

「知らない……俺は何も知らないんだ……」

ルイスがアレストの下から無理やり抜け出す。

「……」

「知らない、のね……砂時計のことを……これからどうなるのかも……」

ルイスの顔は暗い。

「……すまない」

「ビックリしたけど、私も聞き方が悪かったわ。苦労しているということは分かっていたのに」

「俺が悪い。頭に血が上っちまった。で、砂時計だっけねェ……ないぜ、そんなもん」

おどけた口調で言う。

「伝説さ。そんな都合の良いものがシャフマ王国にあるわけがないだろう?」

「嘘はいいわ。さっきの態度で分かったわよ」

「う……」

「隠す理由があるの?」

(訳のわからないものに、あんたを巻き込みたくないから、だ……)

そんなこと言えなかったが。

「はぁ……伝承は本当だったのね。嘘ならどれだけ良かったか……」

ルイスの声は暗い。

「……あんたは俺が怖くないのか?砂時計を持っているんだぜ?これを知っているやつらは……たとえ実在するか分からないと思っていても……俺から離れようとする。世界を滅ぼす存在の近くにいたくないからだ。それか、俺の力を利用して力を得るためにゴマをすって近づくか、だ。あんたはそのどちらでもない……怖くないのか?俺が」

「怖くないわ」

「……」

「だって、ただの人間じゃない」

「そんなことないぜ。砂時計が入っている以上、あんたをころすのは容易い」

「違うわ。アレスト、私が言いたいのは、あんたはそんなことしないってことよ」

人間、だから。

「……」

調子が狂う。アレストは黙ることしか出来なかった。

「砂時計が実在するのなら、所有者に言っておかなきゃいけないことがあるわ」

ルイスがアレストを見つめる。

「アレスト、あんたの砂時計は」


「あと4年もしないうちに、止まる」


アレスト、26歳。

このとき

自分の、そしてシャフマ王国の


運命を知ったのだ。


「シャフマ王国が1000年を迎えた日、砂時計の上部の砂が落ちきる」


「そのとき……何が起きるんだ?」

「俺がしぬのか?」

「それとも、大陸が沈むのか?」


「わからないわ……」


「なぜ分からないんだ。寿命は分かっているのに」

「簡単なことよ。前例がないもの」

砂時計は世界に1つしかない。だから、止まったときのことが分からないのだ。

「……そもそもその情報は確かなのか?あと4年って」

「私はツザール村出身なの。砂時計が創られた場所よ。あと4年というのは、今はもう私しか知らないと思うけど……」

「そうか……」

正直、信ぴょう性は薄い。だが、ルイスが嘘をつく理由はない。

(本当だとしたら……俺はどうしたらいい)

(しにたくない……)

(どうしたらいいんだ……)

頭を抱えるアレストに、ルイスが手を差し伸べる。

「2人で、なんとかしましょ」

「2人で……?」

「確かかも分からないことで他の人を巻き込む訳にはいかないでしょう?私たちで砂時計をなんとかするのよ」

「分かった……。そうだな、俺とあんたで」

アレストがルイスの手を取った。

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