市長土下座計画! その一

 結果、私の市長土下座計画は失敗した。


 今私たちは、生徒会室にいる。

 松乃ちゃんと先輩たちと、そして頼希が座る会議机の前で、ホワイトボードの、向かって右側にタクト君、左側に私が立っている。


 ホワイトボードには、会議机の真ん中に座らされたナビの目から、タクト君がさっきメモパッドに図解してくれた図と、ツクヨミの画像が映し出されている。


 市長土下座計画に失敗した私は、タクト君に相談して、生徒会もとい、ふるさとサイコー部のみんなに協力を要請することにしたのだ!

 頼希は、こそこそと着いてきて盗み聞きをしようとしたところを、笑顔の成瀬先輩に捕まったので、強制参加となった。


「もう……市役所から連絡があって、迎えに行ってきますって校長先生から言われたときは、びっくりしたよ」

 松乃ちゃんが両手で顔を覆って、ふるふる震えながら言った。

 え? 泣いてる?

「ぷふっ……まさか、市長室に突然殴り込もうとする女子生徒がいるって連絡だったなんて……しかもそれがたつ姫ちゃんで、土下座しろって叫んでたなんて、ふふ、あははははは」

 ええっ爆笑?

 松乃ちゃんはお腹を抱えて笑い出した。

「神社にいたはずなのに市役所に行ったのも意味わかんないと思ったけど、市長に土下座しろとか……!」

「松乃。笑いごとじゃない。下手をしたら警察を呼ばれていたかもしれないんだ。たつ姫は反省しなさい」

 うっ。

 天鞠先輩が、鋭い視線で私をにらんだ。

「ごめんなさい」

 ちなみに、校長先生にもやんわり叱られたし、学校につくなり天鞠先輩に自分がしたことが、どれだけいけないことだったかをとうとうと諭されたので、校長先生にもタクト君とそろって謝りに行ってきた。

「まあまあ天鞠。たつ姫の気持ちもわかる。俺もたつ姫だったら同じことをしていたさ。悪いのは市長だ」

 成瀬先輩がフォローしてくれたけど、おかげで自分がどれだけ無謀なことをしようとしたか、理解した。成瀬先輩レベルの無謀さだった。

「たつ姫は、普段は冷静だが、カッとなると思いもよらない行動に出ることがある。怒りを感じたときほど、落ち着くように心がけた方がいい」

 天鞠先輩のおっしゃる通りです……ぐう。


「それにしても、びっくりしたな」

 松乃ちゃんは、身を乗り出して、会議机の真ん中に置かれたナビの頭を、ツンツンとつついた。

「タクト君が、違う世界の未来から来た子で、市長が私たちを追い出そうとしてるなんて……言い出したのがタクト君じゃなかったら、信じられないよね」

 ナビの頭がゆらゆらゆれるが、ホワイトボードの画像は揺れない。どういう作りになってるんだろ。

「僕じゃなかったら……?」

「タクト君、不審すぎだもん! 

 それに王子の衣装、よく見たらベルトがちょっとちがってたんだよね。でも、昨日アニメ映画化の発表が出て。公開された映画版王子の衣装のベルトが、タクト君に借りたベルトと一緒だった……どうしてタクト君は、発表前のデザインを知ってたのか、今朝聞こうと思ってたんだよね。未来から来たんなら、納得」

 そう言いながら、松乃ちゃんは隣の頼希を横目でちらっとみた。

 頼希はびくっとして、うつむいた。

「あ、朝のことは、俺も悪かったと思ってる」

「はっはっはっ! 未来はどうでもいいが、頼希とタクトが仲直りできてよかったな!」

 成瀬先輩は、本当にどうでもよさそうに笑った。

「僕も、ごめんなさい、頼希」

「いいよ、お前、その、外出たことなかったんだろ? 話聞いてると、お前にとって外って、すごく危ないところだったから、その、変なビームが出るウサギ持ち歩いてたってことだろ? もういいよ。俺の方が絡んだりして……本当に悪かった」

 頼希は、とてもしょんぼりしている。

 多分、私がタクト君を探しに行った後、松乃ちゃんに嫌になるくらい責められたんだと思う。松乃ちゃんがコスプレ衣装について聞きたかったところを、結果的に邪魔しちゃったわけだから、松乃ちゃんの恨みはすさまじかったにちがいない。


「で。話を戻そうか。みんな」

 天鞠先輩が、姿勢を正して言うと、全員の背筋がのびた。

「たつ姫。タクト。私から質問がある」

 天鞠先輩の口調がいつもよりも鋭い。さすがのタクト君も、ピシッと姿勢を正した。

「さきほどの話をまとめると、我々が生きるこの世界は、タクトが生まれ育った世界Aの、未来から、過去に干渉があったために生まれたパラレルワールド、世界Bである。

 世界Aの人々は、未来から定期的に人材や物資を送り、銀竜山地下に、時空を超えるための転送装置を秘密裏に建設。銀竜町を裏で操り、最終的に2038年の銀竜町を乗っ取ることが目的である……そうだな、タクト」

「うん」

 手鞠先輩は、普段会議のときに先輩が使う、レーザーポインターを取り出して、ホワイトボード上の「1472年」のところに、光の点を照射した。

「ここに干渉した理由は、この時代に銀竜山に隕石が落下した際の衝撃エネルギーを利用するためと、この時代から長い時間をかけて、銀竜山周辺で暮らしていた人々を操作していくこと」

「……あの」

 頼希が困ったような顔をして手を挙げた。

「そんな昔からいるなら、自分たち以外の人間が住まないように山を守ってたらよかったんじゃねえの? 今になって、もう住みついちゃった俺らを追い出すより楽じゃね?」

「ああ~」

 頼希の言葉に、私と松乃ちゃんと、成瀬先輩が大きくうなずいた。

 確かに、わざわざ追い出すくらいなら、最初から住ませなきゃよかったんじゃないのかな?

「それは、さっき見せてもらった動画でツクヨミが言っていた、文化レベルが未来に近い……というのが重要なのではないか?」

 答えたのは天鞠先輩だった。正解を求めるように、タクト君の顔を見る。

 タクト君は、こくりと頷いた。

「未来の、便利で快適な暮らしに慣れちゃってる人たちが移住してくるんだから、電気や水道、ガスとかいうライフラインもしっかりしてる必要があったんだと思う。だから、現時点までは町を発展させておいてほしかったんだよ。ほんと、わがままな話だけど」

 なるほど。今度は、頼希も含めた私たち四人で「ああ~」と言って頷いた。


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