市長土下座計画! その三
「では私の質問に戻ろう」
天鞠先輩は、さらにポインターの光を移動させて、世界Bの線の一番上。2026年のところに持ってきた。
「タクトは、友人であるサツキさんが過去に飛ばされてしまった事件をきっかけに、自分が信頼していたAIが、とんでもない計画を実行してしまっていたことを知る。
そして、その計画の中心人物であった父親、現銀竜市長・九内竜司を追って、計画を阻止するために、今、ここへタイムスリップしてきた……と、いうことでいいかな?」
「うん」
「ではたつ姫。君が会話したツクヨミは、タクトへの伝言で『この世界線は放棄する。同胞との合流はあきらめる』と言ったのだな?」
「あ、はい!」
完全に聞き役になって油断していたので、声が裏返った。
「それはつまり、この世界Bへの移住計画を、あきらめる、ということではないのか?」
え?
「そういうことだと思う」
戸惑う私たちをよそに、タクト君がケロっと頷く。
「ええっ? そうなの?」
「う、うん」
「どういうこと?」
「ふむ! ならば問題解決だな! 市長を襲撃する必要もなくなったのではないか?」
いつのまにか計画を恐ろしい方向にレベルアップさせていた成瀬先輩も、困惑する私達のことも無視して、天鞠先輩が続ける。
「タクト。君が私達に協力してほしいこととは、なんだ? 市長に土下座をさせることか?」
「ち、ちがう! それは、たつ姫がやりたいことだから」
タクト君が、両手をぶんぶんを振って否定した。そんなに必死にならなくても。
「ツクヨミが言ってたんだ。過去に飛んで行ってしまった者と、連絡を取ることはできないって」
「……え?」
「手段がないわけじゃないけれど、世界は、ほんの些細なことでも分岐してしまう。定められた計画通りに、どんなに
意外。ツクヨミと私が会話したみたいに、普通に市長たちも会話してるんだと思ってた。
だってそれじゃ、何百年も現地の人に丸投げ状態ってことじゃないの? すごいブラック企業じゃん! あ、でも。
「そう言えばツクヨミ、私にしかつながらなかった……みたいなことを言ってたような」
ふと思い出した。
――わたしが接続可能だったそちらの人物は、貴方だけでした。
そう言われた。
「多分だけど、ツクヨミは、僕がこっちに来てしまった段階で、計画は失敗したと判断したんだ。
だから、もうこっちに来てしまった人たちとは、絶縁することになる。そのことを、こっちにいる関係者の誰かに伝えようとしたんだと思う。
けれど、何らかの理由でうまくいかなかった。
それで、僕のナビにリンクしようとして、どういうわけか、たつ姫のところに行った感じだと思う」
「何らかの理由というのが気になるところだが、今それを調べるのは不可能だろうな」
天鞠先輩とタクト君が見つめあって、頷きあった。
私をふくむ他四人は、こちらはこちらで顔を合わせて、困った顔をした。フツーの中学生にはわかんない話だよっ!
「つまり~? それで~?」
松乃ちゃんが、左右にくわんくわんと上半身を揺らしながら突っ込んだ。
「あ、つまり、あの、僕の父さん……市長と、山の地下の施設の人たちは、計画が断念されたことを知らないってこと」
「なるほど」
天鞠先輩だけが理解できたようだった。
「ツクヨミがこの世界を放棄したということを、市長と地下の施設の人々に報せない限り、2038年に向けて、私達が追い出される計画は進行し続けてしまうということだね?」
「そうです」
なにそれっ! なんか不毛だし、すごい迷惑っ!
「ではタクトは、ツクヨミたちが移住を諦めたことを知らない人たちに、その事実を報せることを、私たちに手伝ってほしいというわけだ」
「うん。そうです」
なるほど。ようやく理解した。
タクト君は本当に、ずっと、未来の人たちが私たちに迷惑をかけないように、それだけを頑張ってくれてるんだね。
「なあ、あの、その……タクト」
頼希が恥ずかしそうに声をかけた。
「何? 頼希」
「お前はさ、その、計画が断念されたって聞く前に、どうやって計画を止めようとして、一人で神社まで行ったんだ?」
そう言えば、そこを聞くのを忘れてた。
「あの神社の、本宮って呼ばれているところのどこかに、地下施設への入り口があるはずなんだ。それを見つけて、地下施設に行って、施設を破壊するつもりだった」
破壊。衝撃的な言葉だ。
「過激~!」
松乃ちゃんがのけぞって叫んだ。
「お前見かけによらず、何ていうか、大胆だな」
頼希もちょっとヒイている。
「まあまあ、破壊する必要はなくなったんだろう。よかったじゃないか」
成瀬先輩がおおらかに笑う。
「では、破壊の必要がなくなったのだから、私たちは破壊計画ではなく、未来から来た人々――未来人説得計画を立てようではないか」
天鞠先輩が席を立って、そう言った。
「説得?」
私が思わず聞き返すと、天鞠先輩は、にっこりと微笑んだ。
「もう二度と、ツクヨミとアクセスする方法がないとなると、私達が計画の断念を報せても、すんなり信じてもらえるとは思えない。説得が必要になるはずだ」
そうか。確かに、ツクヨミの計画をぶち壊そうとして、予定外の行動をとったタクト君の言うことを、ツクヨミの信奉者たちが信じてくれるかと言ったら、難しいかも。
「そしてついでに、市長にはタクトに、土下座してもらおうじゃないか」
天鞠先輩はそう言うと、私にむかって、星が飛んできそうなくらい完璧なウインクをした。
かくして、私達ふるさとサイコー部の、未来人説得および、市長土下座計画が発動した!
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