ふるさとサイコー部の(仮)部員 その四
「どうだった?」
私たちが踊りの先生から指導を受けている間に、タクト君に天鞠先輩と成瀬先輩が声をかけていた。
タクト君は、まだ夢見心地みたいな顔をして、何かを答えてた。
私は練習に集中しなくちゃいけないので、聞き耳を立てる余裕もない。
踊りの先生は毎回来てくれるわけじゃない。週に一回来れるかどうか。先生がいる日は、真剣にやらなくちゃ。
「松乃さんは最初から最後まで、しっかり背筋を伸ばしていられるように心がけて。たつ姫さんはもっとひとつひとつの動きをていねいに。それから、二人ともとても上手! もうほぼ完ぺきよ! 本番は、自信を持って堂々とね!」
踊りの先生は二時間くらいの指導のあと、そう言って帰っていった。
私たちが一列に並んで「ありがとうございました」と頭を下げて、先生を見送っているとき、気付けばタクト君もその列の端に混ざっていた。
「二人とも、踊りの練習お疲れさま!」
成瀬先輩がニカッと笑った。
「ありがとうございます」
「本当に、実際にやってみると難しいですね」
私と松乃ちゃんが法被をたたみながら答えると、成瀬先輩はタクト君の腕をぐいっと引っ張った。
「二人ががんばっている間に、ふるさとサイコー部の部員が増えたぞ! 喜べ!」
「え?」
「タクトが入部を希望するそうだ! 二人の踊りがすばらしかったので感動したそうだぞ!」
よかったな! と豪快に笑う成瀬先輩の横で、タクト君は照れくさそうにそっぽを向いていた。
「え、でもいいんですか? 体験入学なのに……」
思わず私がそう言うと、天鞠先輩が会議机を元に戻しながら、こちらに声をかけてきた。
「そうだな。あくまで仮入部ということになるだろうが。体験入学中はここの部員として、活動を手伝ってくれるそうだ」
「ほ、本当に?」
「うん、本当」
タクト君は、視線をそらしたまま、重そうな前髪をふるっと揺らして答えた。
びっくりだ。
興味を持ってくれただけでもすごくうれしいのに、まさか入部してくれるなんて。
短い間でも、自分が夢中になって打ち込んでいることの仲間が増えるのは、すごくうれしいことだ。
だって、私の「好き」を肯定してくれたってことだもの。
「ありがとう!」
「よかったね、たつ姫ちゃん!」
「うん!」
私と松乃ちゃんが手を取り合って喜んでいると、成瀬先輩がタクト君の肩に腕を回した。
「よし! タクトは『カッコ仮』だな! カッコ仮部員!」
「ええ?」
「なんですそれ?」
成瀬先輩は何を言ってるんだ? ちょっと天然なとこがあるんだよなあ。天鞠先輩は、成瀬先輩のそういうとこがお気に入りだーなんて言ってたけど。
「カッコ仮部員か。いいじゃないか。面白い響きだ」
天鞠先輩がニコニコと賛成したので、タクト君の肩書は「カッコ仮部員」になってしまった。
嫌じゃないかな……とタクト君の顔を覗いてみると、なんだかちょっと楽しそうに、ほんのり笑っていた。
タクト君が楽しそうなら、まあいっか。
――コンコン。
不意にドアがノックされた。
すかさず天鞠先輩が「はい」と答える。
「失礼しますね」
そう言いながらドアを開けたのは、保健室の先生だった。
「九内さんのお洋服、乾きましたから保健室に、荷物と一緒に取りに来てくださいね。あ、今着てる体操着は、体験入学中ずっと使っていてくださいね」
そう用件だけを告げると、先生はドアを閉めて保健室に戻っていった。
「タクト君のお洋服っ?」
松乃ちゃんの目ががぜん輝きだした。
「今日はもう解散でいいよ。荷物があるのなら、取りに行かないといけないんだろう?」
「タクトは、たつ姫の家にホームステイするんだろ? たつ姫は自転車だから、二人で歩いて帰ったら暗くならないか? 早めに帰った方がいいぞ」
天鞠先輩が帰っていいよと言ってくれた横で、成瀬先輩が爆弾発言をした。
「ええっ! たつ姫ちゃん家にホームステイ?」
松乃ちゃんにはまだ話してなかったのに!
「松乃、知らなかったのか? さっきタクトに聞いたぞ」
成瀬先輩が、なぜか胸をはって自慢げに答えた。
「たつ姫ちゃん、ほんと?」
「う、うん。昼休みに校長先生からお願いされて……」
内緒にしておこうと思ったわけじゃないんだけど、ちょっと恥ずかしかったって言うか……。
「さすが! タクト君係だね、たつ姫ちゃん!」
この流れが嫌だったって言うか!
「違うよ! 別にタクト君係ってわけじゃないって」
「え、でも、タクト君もたつ姫ちゃん以外は無理! って感じじゃない?」
松乃ちゃんがタクト君を見る。
タクト君は前髪を揺らして、こてんを小首をかしげた。
「あの。松乃」
おっ! 反論? いいぞ! 言ってやれ!
「これ、先輩たちから話を聞いてたから、読めなかった。ごめん」
そう言うと、タクト君は手に持っていたマンガを、松乃ちゃんに返した。
って! 反論してくれないの? もう!
「ああ~! いいよいいよ! 明日も持ってくるから、チャンスがあったら読んでね!」
松乃ちゃんは、そう言ってマンガを受け取った。
「保健室の先生、待ってるんじゃないか? 三人とも、早く行ったほうがいいぞ!」
「あっそうですね! それじゃあ、お疲れさまでした」
成瀬先輩にうながされて、私たち三人は生徒会室を出た。
廊下を歩いて、階段を下りるところで、松乃ちゃんが生徒会室をちらっと見て、にやりと笑った。
「相変わらずだなあ、成瀬先輩」
「? 何が?」
「たつ姫ちゃんもしかして、気付いてない? あんなにラブラブなのに?」
「え? ラブラブ?」
へ? 何の話? 横を見ると、タクト君もこっちを見ていた。え? タクト君も気付いてること?
……と、思ったけど、タクト君はこてんと首を傾げた。つい、私もつられて首を傾げてしまった。
「もう~。そういうとこも好きだけど!」
松乃ちゃんはなぜか、うれしそうに笑って階段をたんたんと、リズミカルにおりていった。
「え、待って待って! ねえねえ、何に気付いてないの? 教えて~」
「いいからいいから! 邪魔者は早く帰りましょうってこと!」
松乃ちゃんはそれ以上教えてくれないまま、るんるんの足取りで保健室に向かっていった。
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