ふるさとサイコー部の(仮)部員 その三

 自己紹介が終わったので、私たちは手分けをして、会議机と椅子をよせて、部屋の真ん中に広いスペースを確保した。

 椅子を一つだけ出してきて、タクト君用に壁際に置いて、そこに座ってもらった。

「さて、踊りの先生が来る前に、タクト君にふるさとサイコー部について説明しようか。たつ姫、よろしくお願いするよ」

「は、はい!」

 天鞠先輩に指名されると緊張するな。

「えっと……」

 タクト君が、期待に満ちた目で私を見ている。

 コホンとせきをして、すぅーっと息を吸う。

「ふるさとサイコー部は、毎年六月~秋の学校祭までの間だけ発足する期間限定の部活です。

 元々は、銀竜神社の祭祀を行うための若い人材が不足したことから、我々銀竜中学校の生徒が手伝ったことが始まりです。

 活動内容は、地域の宝である、県の重要無形民俗文化財じゅうようむけいみんぞくぶんかざいにも指定されている、銀竜神社の祭事の神楽舞や、神楽の演奏の理解と実演。それから、銀竜湖についての研究をし、多くの人たちに銀竜湖の良さを発信することです」

「つまり、神社のお祭りを手伝ったり、夏の市のお祭りや学校祭のステージで踊ったりして、地域の文化を研究して発表する感じの部活~。ちなみに神社のお祭りは来週だよ!」

 発表のときのための活動説明のセリフをそらんじた私の横で、松乃ちゃんが簡単に捕捉説明をした。

 タクト君は、目をまん丸にして、真剣な様子で聞いていた。

 ……興味、あるのかな?

 

 実は、私がとても楽しんでやっている、このふるさとサイコー部は、他の生徒たちには不人気だ。

 この「ふるさとサイコー部」というふざけた部名も、もともと「地域貢献活動部」というイカツい名前だったそう。あまりにも入部希望者がいないので、何年か前の生徒会が改名したんだとか。 

 そもそも生徒の数が少ない。

 いつ統合させられるかという危機に、もうずっと直面してるような学校だ。

 自然と生徒会がその役目も担うようになっていったんだそう。


 私はここに引っ越してきてまだ二年目だし。東京ではお祭りは見てるばっかりで、私も参加したいって思ってたから、この活動のために生徒会に入ったようなものだったりするんだけど。

 ちなみに松乃ちゃんは、このお祭りで踊る、皐月姫役の巫女の衣装に興味があるのだそう。将来コスプレ衣装を作るときに、絶対に役に立つんだって言ってた。


「こんにちは~」

 のんびりとした声がして、神楽舞の先生である、地元のおばさんが入ってきた。

 皐月姫役の巫女の踊りは、銀竜湖沿いの集落の、十四歳以下の女の子の中から選ばれた子たちが踊っていたそうで、交代で踊りを教えに来てくれるのは、昔その踊りを踊った人たちだ。

「こんにちは!」

「今日もよろしくお願いします!」

 私と松乃ちゃんが頭を下げる。

 今年巫女役で踊るのは、私と松乃ちゃんなのだ。


 手鞠先輩は横笛、成瀬先輩は太鼓を演奏する。踊りの先生の手拍子で、お囃子はやしまいの練習が始まった。

 本番では着物の袖を持ったりもするので、学校に練習用に用意されている法被はっぴも羽織り、本番で使うのと同じ大きさの扇子せんすを持って練習する。


 手を伸ばして。背筋を伸ばして。

 膝を曲げて。くるりと回って。

 全部の動きが、ゆっくりゆっくりで、きれいに見えるように動くのが、思っていたより何倍も大変だ。

 去年、天鞠先輩が踊っているのを見て、来年は自分がやりたいと思ったけど、甘く見てたなって反省した。

 成瀬先輩の太鼓の音、手鞠先輩の笛の音色、よく聞いてしっかり覚えないと。本番はもっと楽器が増える。先輩たち以外の楽器は大人の人たちが演奏する。来週の月曜からは、楽隊の人たちとも合流しての練習になる。


 腕を伸ばして。

 扇子を捧げ持って。

 袖をつかんで。

 膝を曲げて。

 くるりと回って。


 壁際で、椅子に座って私たちの練習を見ていたタクト君が見えた。

 目をまん丸にして、今日何度も見た「こんなもの初めて見た顔」をしてた。

 すっかり神楽の音色と、私たちの舞に夢中になっているみたい。

 

 何だかうれしい。

 きっと去年のお祭りの夜、私もあんな顔してたんだろうな。

 

 一曲通しての練習が終わると、タクト君は、呆然としたまま、ぱちぱちと拍手をしてくれた。

 すごくうれしかった。

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