第4話



「ちれーな、キラキラがある!」

 小さな球体がぷかぷか浮き上がってきた。

 雲のようで深部に光が見える。

「あれ、大きくなってる!」

「オーリー!」

 おもちゃと思ったのかオリビエは、ハスラムの神経が球体に向かった瞬間、腕から飛び降りて掴もうと駆けた。

 ドカン!

 この部屋の壁の大半が吹き飛んだ。

 ハスラムの放った術が直撃した付近の地面が見え、えぐれている。

「え!」

 瞬時に飛び退いたもののフェリオは、固まっていた。

「これおもちろい」

 とっさにハスラムが作った空中に浮かぶ防御の球体の中でオリビエは、はしゃいでいる。

「加減を間違えたか。二つの術をほぼ同時っていうのはまだ難しいな」

 反省を口に防御の球体からオリビエを取り出し抱きしめる。

「まあいいか。オーリーが無事だったから」

 いつものハスラムらしからぬ無責任な言葉も続く。

「話が違うぞ! わしの屋敷をこれ以上壊さないと約束しただろうが!」

 別の部屋で縛られ、連行を待っていたリードが怒声を上げていた。

「うるさいなぁ。オーリーが怖がる。さてと、魔術書を探そうか」

 ハスラムはリードの非難など全く気に留めず、部屋から出ようとしていた。

「あ、あのぉ……、これだけの破壊工作をしてしまったことですし、オリビエを元に戻して探した方がいいのでは、ほら、人手は多い方がいいでしょう!」

 オリビエの好奇心が次なる悲劇が呼ぶかもしれないし、足元の異変が気になる。

 ぐらついている。かなりの頻度で。

 術の地面直撃が原因かもしれない。

「オーリーは、このままでもいいだろう。オ

レが二人分探すから」

 ひし! とオリビエを抱きしめたハスラムがフェリオを睨みつける。

「はっ、はい」

 フェリオはこの余りの迫力に即座に頷いた。

 バリン! ガッシャーン!

「きゃあ、ちゅごーい! おもちろい!」

 そんな二人をよそに突如として起こる破壊音とオリビエとはしゃぎ声。

「へ!」

 声をハモらせ二人がオリビエを見れば、さっきハスラムが唱えていた呪文を口に所かまわず術を放出していた。

「やめーーーーーーーい!」

 唖然となっている二人にまたリードの怒声が聞こえる。

「オーリー、止めなさい」

 次なる標的へ術を放出しょうとするのを口に手を当てて阻止する。

「びぇーーーーん!」

 すぐさまオリビエは泣き出す。

「こいつの得意技を忘れていた」

 呪文を一度聞けばすぐに使いこなせるという。

「威力の加減なんてオリビエには無理ですよね」

 フェリオも顔を引きつらせる。

 今までオリビエの制御力のない術のおかげで、散々な目に遭わされていたのだ。

 それも修行を積んで、制御力を少し覚えたオリビエに。

 今のオリビエは修行どころか、物の善悪さえも判断できない子供。

 脅威だ!

 怖い!

「ハスラムさん! オリビエをすぐに分別のつく歳に戻した方がいいです! これ以上術を使ったら、この屋敷、いやオレたちの本来の使命さえも果たせなくなります!」

 泣きやむや声こそはっきりと聞こえないが、呪文を唱えているようなオリビエの様子にフェリオは焦った。

「いや、いいきかすから……」

 喋り終わる前に爆音が聞こえ、地面の揺れが大きくなった。

 呪文を唱えるのが早くなっていたオリビエの術が直撃した場所には、地の底まで続いているような穴が開いている。

 威力も増しているようだ。

「うわぁ! 面白いと感じたことには飽きることを知らないし、人の迷惑なんて関係ないんですよ! それがいけないことだって悟るまでは。そんなオリビエの性格をハスラムさんは知っているでしょう!」

 バラバラと崩れ落ちてゆく床に迫られフェリオは、慌てた。

「おもちろい! ちたが真っ暗で見えない!」

 そんな大人とは関係なくはしゃぐオリビエ。

「全員撤退しろ!」

 ハスラムは、まずは指示を出す。

「オーリー、ほらこれ綺麗だろう」

 自分がかけていた魔法の護符のペンダントをオリビエの首にかける。

「うん」

 ニッコリ微笑みペンダントをいじり出した。

「逃げるぞ。フェリオ、すまないがリードを頼む」

 ペンダントに興味がいったことを確認すると二人は走り出した。

 フェリオはリードを拘束していた部屋に走り、担ぎ屋敷から逃げ出す。

 ハスラムは、見回れるだけの場所を残った者がいないかチェックしながら。



 轟音が辺りに響く。

 土煙に違和感のある臭いも充満していた。

「これだけの臭いを放つとは、ヤバいものが多いんだ」

 かわいいオリビエが吸わないように自分のハンカチで鼻を抑える。

「消えましたね」

 地面の揺れが収まり、少し薄くなった煙の向こうには大きな穴と、近くにあった森の木々が見えるだけだった。

 リードの屋敷は地底奥深くへと姿を消した。

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