第3話





「どうしてオレがおじちゃんで、フェリオがお兄ちゃんなんだ? 年格好はさして変わらないぞ。おじちゃんって言わないでハスラムって呼びなさい」

 ハスラムは、オリビエのおじちゃん攻撃にむっとなりながらも機嫌はよかった。

「オーリーは、オレとあのお兄ちゃんや他の人たちと悪人を捕まえにきていたんだ」

「悪人? 怖い人なの?」

 少し怯えた様子があった。

「全然怖くない人だから。それにもう捕まえたから」

 にっこり微笑みながら説明する。

「ならいいや」

 優しく言われオリビエはすぐに安心する。そうなると次なる興味へと手が伸びる。

 キラキラ輝くハスラムの黄金のストレートの長い髪に。

「ちれい!」

「ありがとう。でね、どうしてオーリーがこうなったかを調べないといけないんだ。お兄ちゃんがここに来るまでこの部屋で何をしていたか覚えている?」

「ここで?」

 オリビエは、周りを見た。

「分からない」

 棚だらけ、そこには瓶や箱やらどの棚にもいっぱいつまっている。

「そうか」

 ハスラムは、オリビエを抱き上げて服や剣がある場所へと行った。

「これか」

 瓶を拾い上げオリビエに見せる。

「あ! スグリ!」

 瓶が目に入るや即座に手を伸ばすが、ハスラムにはたかれる。

「食べたな。やってはいけないっていつも言ってるだろう」

 キッと睨むやすぐに泣き出した。

 まずいことをしたときのオリビエの反応だった。

「大きいけど、このおじちゃん、ハシュラムだ」

「食べたんだ」

 ぼそっとフェリオは声が出てしまった。

 下手に口出さない方がいいと分かって静観していたが。

 大泣きしている子供になったオリビエをあやすハスラム。

 おたおたしている。

 いつもと違う。

 それだけこの状況は、大変なことなのだが。しかしだ、それ以上にオリビエの危機感のなさに呆れる。

 おいおい、いくら大好物でもこんな怪しいものしかないような場所で拾い食いはいけないだろう。

 毒が入っていたらどうするんだ? と、言いたいが、まず片付けなくてはいけないことをきいた。

「あのー、オリビエをどうしますか? まさかこのままってことは?」

 泣き続けているオリビエを一生懸命になだめているハスラムにきく。

「それはないと思う。原因はこのスグリを食べたからだろうから。元に戻す薬がこの棚のどこかにあるはずだよ」

 変な物を作っていたが、魔法薬では第一人者のリードだった。

 この発想や技術をまともなことに使えばこうならずに済んだのにとハスラムは、惜しんだ。

「さてと」

 瓶を棚に置くや部屋を出て行こうとする。

「早く探した方がいいんじゃあ」

 ハスラムがしたことは、戻しただけ。

 元に戻す薬を探そうとはしない。

 視線は、自分の髪で遊び、きゃあきゃあと機嫌のいい声を上げているオリビエを愛しそうに見ているだけ。

 フェリオは慌てた。

「そうだね。魔術書を早く探さないと。今日中にトラムの村に着かないといけないから」

 ここからそう離れてないトラムの村に討伐隊が拠点としている宿があった。

「いえ、あの、それも大切ですが、その、オリビエもですね……もしもーし、ハスラムさん聞こえてますか?」

 自分の存在など忘れているようなハスラムに大声を出してしまった。

「このままでもいいんじゃないかなぁ?」

 本音が出る。

「一つ質問してもいいですか? オリビエって、子供の頃からハスラムさんが苦手でいつも逃げ回っていたんじゃあ?」

 今、目の前にいるオリビエの様子からは到底考えられない。

 でも、傭兵ギルドで知り合って相棒になってからのオリビエのハスラムに対する態度を見ていると、それはうそだとも思えない。

「この頃は、まだこうやってオレの後を着いてきてくれてたんだ。もう少しすると友達がひやかすものだから、ちょっといじめたりきついこと言ったりで……」

 ハスラムはその頃を思い出して苦い顔になっていた。

 そう、完全に避けられるようになったのは、「オマエなんて嫌いだ!」とみんなの前で宣言したあの時からだった。

「まあ、そんなのだ」

 はははとから笑いで終わる。

「はぁ……」

 いつもとは反応が違う。

 冷静な判断に機敏な行動。みなが憧れる人なのだが。

 なのに今は、自分と話しをするのもおっくうそうだとフェリオは感じた。

「これ何?」

 そんな間にもオリビエは、ハスラムの腕の中から手を伸ばし近くにある瓶を握り振り回していた。

「危険な物かもしれないからね」

 それを優しく言いながら取り上げて元の場所にハスラムは戻す。

「あの……」

 その瓶を戻す前にオリビエの薬効を消す薬かどうか調べたらと言いたかったフェリオだが、やめた。

 この人はある意味で今、幸せなんだ。と。

 ハスラムにじゃれつき甘えているオリビエ。さっきまでのオリビエからは想像することは、不可能だ。

 ハスラムにとって最愛という形容詞を付けてもいい存在のオリビエに、「あいつは口うるさくて、意地悪だ」と、子供の頃の思い出と、唯一無茶をたしなめられる存在、目の上のたんこぶとして避けられているからだ。

 でも、これでいいのかと? しみじみとした気分になる。

 バリン!

 瓶が床に落ちた音がする。

「こら、やめなさい!」

 ハスラムに注意されてもオリビエは好奇心が先にたち、隙をみては瓶を触っていた。

 その一つが手から滑り落ちたのだった。


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