第28話 三年生を送る会
卒業式まであと二週間。
三年生は視聴覚室で卒業アルバム作りをしていた。
三人で協力して、行事ごとに担当を決めて、パソコンで写真の編集をしていた。
三年間の写真を編集するのは大変だが、懐かしい写真を見返すと、色んな思い出が蘇ってくる。
作業していると、明日香ときらりが私達の元へやってきた。
「卒アル作り中、失礼しまーす。ちょっとお時間良いですか?」
明日香が妙な笑顔で話し掛けてきた。
何か企んでいる感じがビンビン伝わってくる。
「なーにー?」
千秋が聞き返してた。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけどー。入学式の時の話を聞かせて欲しくて。何か面白いエピソードとかありましたか?」
「入学式で面白いエピソードってあったっけ?」
私はしばらく考えた。
「あったよ! ヒドいエピソードが!」
千秋は心当たりがあるらしい。
「なんだっけ?」
ふーも思い出せないらしい。
私も全く心当たりが無い。
「あんた達、遅刻してきたじゃん!」
「あぁー……。そんな事もあったわ」
「いやいや……。うち、当時の担任の先生に逆ギレされたんだからね! 『なんであの子達来ないの!?』ってね! うち、タジタジだったんだから!」
言われてみれば、そんなこともあった。
ふーは時間を間違えて遅刻。
私は、入学式のお便りを親にも見せず、自分も見ていなかったため、日付を知らずに遅刻したのであった。
そんな事があったにも関わらず、私とふーは、すっかり忘れてしまっていた。
明日香ときらりは、熱心に頷きながらメモを取っていた。
こんな話を聞いて、何をする気なんだろう?
「ありがとうございます! またちょこちょこ聞きに来るかもしれませんが、その時はご協力のほどよろしくです! では、失礼します!」
そう言って、二人は教室に戻って行った。
「なんだったんだ?」
「さぁー?」
私達三人は顔を見合わせ、首を傾げた。
そして、卒業アルバム作りを再開したのであった。
そして数日後。
三年生を送る会の日がやってきた。
私達は、音楽室の扉の前に整列していた。
「あー、とうとうこの日かー。どんな出し物用意してるんだろう? 楽しみー!」
ふーはワクワクしていた。
「でもなんか、照れくさいよな」
私はこういうのが苦手だ。
「うちもー。二年生、頑張って準備してくれたようだから楽しもう!」
千秋がそう言うと、音楽室の扉が開いた。
見ると明日香がいた。
「三年生のみなさん、これから三年生を送る会を始めます。中で合図があるので、合図に合わせて扉を開けます。そしたら、入場してきて下さいね。とりあえずこれ、肩に掛けて下さい」
明日香から襷を手渡された。襷には『今日の主役!』と書いてあった。
渋々襷を肩に掛けて準備を終えると、扉が開いた。
入場すると、二年生と先生方が拍手で出迎えてくれた。
案内された席に座ると、きらりの進行で会が進んだ。
「これより、三年生を送る会を始めます。生徒会長挨拶」
「はい」
明日香が私達の前に立った。
「三年生のみなさん。いよいよあと八日で卒業式ですね。三年生のみなさんとは保育園の頃から共に遊び、共に学んできました。今までの感謝の気持ちを込めて、出し物を考えてきましたので、今日は楽しんでいって下さい」
明日香の挨拶が終わった。
「では早速、出し物の準備を始めます。準備をするので少々お待ち下さい」
二年生はバタバタと準備を始めた。
まもなくすると、靖郎が合図を出した。
「それでは始めます!」
淳のナレーションから寸劇が始まった。
「二年前の四月、大きな期待と不安を抱きながらこの姫乃森中学校に入学してきた三年生のみなさん。あの頃のことを覚えていますか?」
「みんな遅いな~」
千秋役は明日香がやっている。
「遅すぎる!」
当時の担任の先生役はナレーションの淳がやっている。
「こんにちわー」
ふー役はきらり、私の役は靖郎がやっているようだ。
「遅い!何してたの!」
「時間見てなかったー」
「日にち見てなかったー」
そのやる気のない演技に、思わず吹き出してしまう。
ふーや千秋もゲラゲラと笑っていた。
「遅いですよ! 早く花をつけなさい!」
「すみません!」
「こうして、遅刻から始まった入学式」
思い出すと、酷いスタートだったなあ。
「中学校に入学して色んな経験をしてきました。部活動、太鼓、三人だけの修学旅行……」
寸劇の中で、ボート教室や部活動、修学旅行の再現を見ていると、濃厚な中学校生活だったなと思いふけてしまった。
姫乃森中学校だからこそ、この少人数だからこそ経験できたことが沢山あったと思った。
最後、二年生全員から「ありがとうございました!」と挨拶をされた。
私達は拍手を送った。
次に内藤先生が作ったスライド写真ショーが披露された。
「二年生の寸劇もありましたが、写真から三年間を振り返ってみて下さい。ちなみにこれ、卒業式でも流すから」
「えぇー!」
まさかのカミングアウト。
私達のブーイングをよそに、スライドショーが始まった。
入学式から運動会、修学旅行、ボート教室、文化祭、授業風景など沢山の写真が披露された。
懐かしい写真に見入ってしまう。
同時に、これを親に見られるのかと思うと、こっ恥ずかしくなった。
スライドショーが終わると再び、きらりの進行に戻った。
「それでは最後に、三年生のみなさんは真ん中にある、くす玉の所まで移動して下さい」
なかなか大きなくす玉が天井から吊るされている。
完成するまでに、どのくらいの時間がかかったんだろうと思うほどの立派なくす玉だ。
私達三人はくす玉の下まで移動した。
「ではでは、お三方。くす玉の紐を持って下さい。私がカウントダウンしますので、それに合わせて紐を引いて下さいね。それでは!」
きらりの合図で全員でカウントダウンが始まった。
「三! 二! 一!」
カウントダウンに合わせて私達は思いっきり紐を引いた。
すると、「ブチッ」と鈍い音が聞こえた。
なんか手元が軽い。
私達の手には千切れた紐があった。
上を見ると金色のくす玉が、まるでミラーボールのようにクルクルと回っていた。
全員、時間が止まったかのように動きと表情が固まった。
しばらくして、内藤先生が、音楽室の掃除用具が入っているロッカーからモップを取り出してきた。
内藤先生がモップの柄の部分でくす玉を何度かつっつくと、パカッと開き、大量の紙吹雪と垂れ幕が真下にいた私達三人にめがけて落ちてきた。
私達はダイレクトに大量の紙吹雪を頭からかぶってしまった。
一瞬、何かの罰ゲームに感じてしまった。
「おっ……おぉー……」
くす玉が見事に割れると、気の抜けた歓声とまばらな拍手が聞こえてきた。
「ギャァーーーーー!!!」
千秋とふーは慌てて紙吹雪を払っている。
「なんだこれー……。あれ? なっつ?」
千秋は私のことを探した。
隣にいるのに……。
「あんたらの真ん中にいる!」
紙吹雪に埋もれたうえ、垂れ幕に隠れてしまって見えなくなっていた。
千秋とふーは慌てて私にかかった紙吹雪を払ってくれた。
払い終わると、無表情の私が出てきた。
「探すな! ずっと隣にいただろ!」
「だってあんた、小さくて余計見えなかったんだもん!」
「お前、保育園からの付き合いだろ! 分かるだろ! 察しろよ!」
「まぁーまぁー」
私と千秋が言い合っていると、ふーがなだめてきた。
垂れ幕をよく見ると、「今までありがとうございました! 卒業おめでとう!」の文字が書いてあった。
卒業……。
身の引き締まる言葉に息を呑んだ。
「最後にエールを三年生のみなさんに送りたいと思います」
靖郎と淳を先頭に一人ずつにエールを送ってくれた。
「フレー! フレー! 千秋さん! フレーフレー千秋さん! フレーフレー千秋さん! オー!」
「ファイトー! ファイトー! 冬美さん! ファイトファイト冬美さん! ファイトファイト冬美さん! オー!」
「ガンバー! ガンバー! 夏希さん! ガンバガンバ夏希さん! ガンバガンバ夏希さん! オー!」
私達は「ありがとう」と言いながら拍手を送った。
「それでは、三年生から一言お願いします」
「んじゃー、元生徒会長よろ!」
「よろよろ~」
私とふーは千秋に、三年生代表で挨拶を任せた。
「元生徒会長をいつまでも引っ張るな! まぁ……良いけど」
面倒くさそうだけど、千秋はまんざらでもなさそうだ。
進んで代表の挨拶を引き受けてくれた。
「三年生を代表して私から挨拶させていただきます。本日はこのような素敵な会を開いて下さり、ありがとうございました。あと一週間ほどで卒業式があります。最後の卒業生として気を引き締めて、残り少ない中学校生活を過ごしたいと思います。卒業式では私達はもちろん、二年生のみんなも最後の卒業生の一人です。みんな元気に卒業式を迎えられるようにしましょう。今日は本当にありがとうございました」
こうして、三年生を送る会は大成功(?)に終わったのであった。
「じゃー、後片付けするか」
二年生達がそう言うと、みんなで片付けを始めた。
なぜか、三年生も一緒になって床に散らかった紙吹雪や机、椅子などを片付けさせられた。片付けが終わる頃、内藤先生が気づいた。
「あれ? 三年生、退場してない……」
内藤先生の言葉に二年生達がハッとした。
「三年生、出てって!」
二年生達が慌てて私達を廊下まで押し出してきた。
「はっ!? ここまで手伝わせておいて、扱い雑っ!」
私達は文句を言うも、二年生達から「早く出ていって! 教室戻って!」と言われながら、扉の方まで押されていった。
廊下に出ると二年生達が、
「はい! お疲れさまでしたッ! さようならッ!」
と言って、扉をバンッ! と思いっきり締めた。
「あいつら、小さい頃から全然変わってないなー」
私がフッと笑いながら言うと、千秋とふーも
「そうだねー」
と笑いながら頷いていた。
音楽室をあとにし、私達三人は教室へと戻って行ったのであった。
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