第15話 文化祭準備(後編)
地域の方々が一番楽しみにしているステージ発表がある。
それは、郷土芸能だ。
姫乃森には、お神楽と田植え踊りの二つが代々の伝統として残っている。
お神楽は江戸時代末期、田植え踊りは鎌倉時代まで遡るほどの歴史がある。
しかし、少子高齢化が進む中で継承していくのが難しくなり、今は、文化祭で子供達が踊りを披露することで、なんとか踊り続けている状況である。
数年前までは中学生だけで踊っていたが、中学生の生徒数が年々、減少しているため、それ以降は小学校高学年も加わるようになった。
お神楽と田植え踊りは、住んでいる地区で演目が決まっている。
私と千秋、淳、きらりは、お神楽。
ふーと靖郎、明日香は、田植え踊り。
練習は夜に集まり、約一時間半くらいする。
学校から帰って速攻で宿題を終わらせ、郷土芸能の練習で公民館という日々はハードすぎた。
生徒達も大変だが、夕飯を準備したり公民館までの送り迎えをしたりと、子供達を支える親も大変だったろう。
今夜も練習があるため、急いで宿題を終わらせて夕食をかきこみ、近所にある公民館へ母と向かった。
公民館に着くと、ちょうどみんなが集まったところであった。
私達、中学生四人と、小学生が四人。
指導者は五人。
三人はおじいちゃん、二人は中高年の男性だ。
まともに踊れるのは中高年の男性二人だけだ。
文化祭まであと一週間ということもあり、なかなかの出来栄えに仕上がっていた。
今日は衣装を着て踊ることになっている。
袴姿に、てっぺんに鶏冠をつけた兜を被る。
ちなみに、オスとメスがあり、鶏冠が大きいのがオス、小さいのがメスとなっている。
二人一組で踊るお神楽であるため、相棒との息も合わせながら踊らなければならない。
ちなみに私の相棒は千秋である。
母に手伝ってもらって衣装を着終わると、指導者の中の一人のおじいちゃんが話しかけてきた。
「やっぱ、おめーのじいさんそっくりだ。チビだけど。踊りもじいさんそっくりで格好が良い。チビだけど」
私の祖父は私が生まれるずっと前に既に亡くなっており、自分自身じいちゃんがどんな人か全く分からない。
じいちゃんはこのお神楽の舞手だったらしく、地元では有名人だったらしい。
郷土芸能好きは、じいちゃんの血筋のようだ。
指導者のおじいちゃんのように、じいちゃんのことを知っている人は、私の踊りを見てよく、じいちゃんとそっくりだと言ってきてくれる。
じいちゃんのことを知らない私にとっては、じいちゃんのことを知ることが出来て嬉しいのだが、必ず「チビだけど」と言われるのは苛立ちしか覚えない。
じいちゃんは百七十センチくらいの人だったらしい。
身長なんて、どうにもならないのだから、しょうがない。
だから、あまりチビと言わないでもらいたい。
そういつも思っていた。
「どうもです」
チビと言われて内心ブチギレながらも、褒めてくれているのだからと、一応お礼を言っておいた。
衣装を着て踊ると、非常に身が引き締まる。
袴姿は動きづらいのだが、それでも上手に踊ることができた。
私のことをチビ呼びしていたおじいちゃんが、
「来年は小学生だけが踊るんだなー。そのうち、小学校もなくなるんだろうから、このお神楽もそろそろ潮時か……」
と、寂しそうに呟いていた。
「大丈夫ですよ。私はこのお神楽を覚えてます。大人になっても、ずっと踊り伝えていきますよ。少なくとも私が生きている間は絶対に」
そう言うと、おじいちゃんは微笑みながら頷いた。
正直、思っている。
いつかはこのお神楽も、ふー達が踊る田植踊りも、姫乃森から学校が失くなれば、いつか途絶えてしまう。
学校がなくなることによって、地域の宝もなくなってしまう。
あるものを失くすことは簡単だ。
しかし、無いものを作ることはとても難しい。
まだ中学生ながら、現実を思い知らされた。
将来への不安は積もる一方だが、今の自分達ができることもいっぱいある。
私は、それを一生懸命やるしかない。
「おじいちゃん! 文化祭で一生懸命踊るから、絶対に見に来てくださいね!」
私がそう言うと、
「おう、楽しみにしてるよ」
と言ってくれた。
おじいちゃんの目は、期待なのか、泣いているのか、キラキラしていた。
学校の行事ではあるが、地域の期待も背負った文化祭。
本番まであと一週間だ。
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