第12話 学校にお泊りキャンプ
八月に入り、まだ暑い日が続く。
お盆に入る前には、毎年親子レクの行事がある。
今年は閉校の年ということもあり、思い出づくりとして学校でキャンプをすることになった。
親世代もほとんどの母校が姫乃森中学校だから、思い出に浸れることであろう。
集合は夕方の四時、メインとなるのは夜の時間だ。
集合して早速、テントを張る作業だ。
校庭に割り当てられた場所に、親子で協力してテントを張った。
その後は、バーベキューの準備だ。
ほとんど、親達が準備をしてくれた。
私たちは、お皿の準備や、テーブル、椅子を並べるくらいであった。
親たちの手早い準備のお陰で、十八時前にはバーベキューを始めることが出来た。
お腹いっぱい食べた後は片付けをし、その後が本番であった。
「さぁー、片付けも終わったし、夏の定番やりますかー!」
明日香のお父さんが、みんなに呼びかけた。
娘のほうは、またかというような顔をしている。
「みんなー、集まってー」
中学校の中庭に椅子を並べて座った。
「これから肝試しをしまーす!」
張り切っている……。
それもそう。
明日香のお父さんは、ヨットハーバーの職員を長年やってきた人である。
古い建物なので、心霊現象がやたらと多いらしい。
その恐怖体験は、昔から何度も聞いてきた。
「えぇー!」
そういったのは、きらりとふーであった。
靖朗と淳は楽しそうにしていた。
明日香は何度も聞かされているせいか、他人事のような顔をしている。
私は霊感があるから、毎日が肝試しみたいなものだ。
そのせいか、人なのか霊なのか分からない時がある。
ちなみに千秋も少し霊感がある。
小さい頃から私と一緒にいるせいか、霊感が移ってしまったのかもしれない。
私が人なのか霊なのか分からない時は、いつも教えてくれる。
「まず、準備運動でオレの心霊体験話から……」
そういって、懐中電灯を消し、ろうそくに火を灯して地面に置いた。
一本のろうそくだけの灯りは、なかなか雰囲気が怖くなる。
「俺がヨットハーバーで勤務していた時の話をしよう」
そう言って、明日香のお父さんが語り始めた。
「一人で夜勤をやっていたんだけどね。見回りをしていたら、誰もいじっていない水道から、水の雫が落ちる音が聞こえたんだよ。しばらく使っていないのになんでかな? 水道壊れたのかな? って思って蛇口を締めて水を止めたんだ。その水道の前に鏡があるんだけど、水道止めた後にふとその鏡を見たら、髪の長い女の人が! 俺を見ていたんだよ!」
「ギャー!」
「もう、いいよー!」
たまらず、きらりとふーが叫んだ。
私と千秋がなだめていると、明日香のお父さんが私達の方を指差して、
「そこに人がッ!」
と、言ってまた驚かせてきた。
なだめているのに、更に恐怖を与えるの、やめてくれませんか?
明日香のお父さん……。
私と千秋は心の中でツッコんだ。
「ごめんごめん」
明日香のお父さんは怯える二人に謝りながら、続きを語り始めた。
「オレもびっくりして逃げてさー。事務所に戻って気持ちを落ち着かせるためにテレビをつけたのね。そしたら……」
妙に溜めてきている。
そう思った瞬間。
「つけた番組で心霊写真コーナーやってたんだよーッ!!!」
「ギャーーー!!!」
きらりとふーに加えて、靖郎と淳、明日香も騒ぎ始めた。
私と千秋は冷静だった。
というか呆れていた。
なんだ、このオチは……。
「……という笑い話でしたー。ウォーミングアップできたかなー?」
ウォーミングアップというか、みんな血圧と脈の変動がおかしくなっただけですけど。
私と千秋はそう思った。
「では、くじ引いてー」
明日香のお父さんの手には割り箸七本握っていた。
肝試しを周るためのチーム分けをするようだ。
チームは、靖郎と淳の男子チーム、きらりと明日香の女子チーム、そして私と千秋とふーの三年生チームに見事に分かれた。
初めに靖朗と淳、十分後にきらりと明日香、また十分後に私達のチームが出発した。
中庭から図書室が見えるが、そこではお母さん達が楽しそうにお茶をしていた。
ということは、脅かし役は川村先生と内藤先生、お父さん達だとその時気づいた。
次々と悲鳴が聞こえてくる。
それを聞いたふーが怯えていた。
「大丈夫だよ、ふー」
千秋はそう言って宥める。
「あんた達は見えるでしょ!? 余計なこと言わないでよね!」
今にもふーは泣きそうな顔をしていた。
「それはなっつに言ってくれ」
「え? なんでよ。しょうがないでしょ? 見分けつかないんだもん」
そう言っていると、私達のチームの出発の時間になった。
コースは、中庭からスタートし校門を出てすぐ左に行く道がある。
道なりに行くと、お墓があり、近くを通ると、中学校の校舎に出る草むらの坂がある。
その坂を登って中学校の中庭に戻ればゴールとなる。
「んじゃー、ちゃっちゃと行きますかー」
私が先頭で歩いていく。
ふーは千秋にガッチリとくっついて歩いていた。
校門を出て左に曲がると、人の気配がした。
というか、草を踏む音が聞こえた。
木に隠れている人がいる。
私が木に懐中電灯を向けると、そこには川村先生がいた。
「川村先生、みーっけ」
「なんで分かったんだよ!」
「さっき動きましたよね? バレバレですよ」
「もう少しさー、肝試しって感じで来てよー。かくれんぼじゃないんだから」
「す、すみません」
千秋とふーは、私と川村先生のやり取りを聞いて笑っていた。
「んじゃー、学校に戻ってるねー」
「お疲れ様でしたー」
川村先生と別れて、道なりに進んでいく。
お墓の前辺りまで行くと、ふーが明るい顔で言う。
「やっとゴールが見えてきた! 早く行こう!」
そう言って、私と千秋を焦らせる。
「そうだねー」
私がそう言って答えた途端。
「わぁー!!!」
突然、男の人の声が聞こえた。
聞こえたと思ったら、お墓がある方向から男の人が二人走ってきた。
それにはさすがに私達もビビった。
「なに!?」
思わず叫ぶと、その男の人達が、明日香と靖朗のお父さんであることに気づいた。
「どうしたんですか?」
ふーが怯えながら聞いた。
「ヒトダマが見えてさー!」
お墓の辺りに見えたということで、その方向を見るも何も見えない。
「何もないじゃないですかー。本当に見えたんですか?」
千秋が聞くと、明日香のお父さんが、
「本当だって! オレ達、先に戻ってるね!」
と話し、私達三人を置いてお父さん達は戻って行った。
「なんか三年生組だけ、夜の散歩になったな」
私が呆れて話すとふーが、
「別にそれでいいじゃん! これ以上求めてないもん!」
と言い張った。
その時、お墓の方から白い着物を着たお婆さんが歩いてきた。
「あ、こんばんわー。今日も暑いですねー」
私がそう言うと、ふーが
「だから! そういうのいいから早く戻ろうよ!」
と言ってきた。
千秋がまたかというような顔で、いつものように教えてくれた。
「なっつー。その人、人じゃないよー」
「あれ? また間違ったわ。えへへ」
私は笑いながらいうと、老婆が話しかけてきた。
しかし、ふーだけが見えなければ、全く聞こえていなかった。
「おめさん達が、この中学校の最後の卒業生だね」
「はい、そうです」
私は淡々と老婆と会話をした。
「私もここの中学校の卒業生だよ。寂しいもんだねぇ、学校がなくなるってのは。おめさん達。胸を張って卒業しなよ。姫乃森中学校を卒業できることを誇りに思いなさい。残りの学校生活楽しむんだよ」
そう老婆が言うと、すーっと消えてしまった。
ふーが恐る恐る私に話しかけてきた。
「誰? 何言われたの?」
「知らないばあちゃんが、胸を張って卒業しろ、この中学校を卒業できることに誇りを持てってさー。なんか、OGだったみたい」
「へー……。わざわざそれを言いに来たの? ふしぎー」
「ばあちゃんも帰ったし、うちらも戻ろうか」
千秋がそう言い、私達は学校へと歩き始めた。
皆の所に戻ると、二年生が「おそーい」と口を揃えて言ってきた。
もう既に、花火の準備が出来ていた。
花火を見たふーが、一気にテンション上がり走り出した。
「花火!? やったー!」
打ち上げ花火やと持ち花火。
一気に周囲が明るくなった。
花火の後はテントで寝るだけだ。
田舎の夜空に魅了され、まだ寝くなかった私は星を眺めることにした。
一人で見ていると、千秋とふーがやってきた。
「二年生のみんなは疲れたみたいで寝ちゃったよ。なにしてんの?」
千秋が話しかけてきた。
「今夜は、星が凄い見えるなーって思って」
「わあー! ほんとだー!」
ふーが夜空を見上げて言った。
「あれがはくちょう座とわし座だから……夏の大三角形だね!」
ふーが興奮して言う。
「はぁ、夏休みも終わるなー」
千秋が溜め息とつきながら言う。
「そうだねー。進路、ちゃんと決めないとなー」
「ねー。進む道が別々だとしても、あたし達ずっと友達だよ!」
ふーが私と千秋の方を向いて言った。
「当たり前じゃん!」
夏の終わり。
そろそろ、進路を決定する時期だ。
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