第9話 たった三人だけの修学旅行(後編)
修学旅行三日目。
この日は水族館とテーマパークに行く日だ。
ふーは都会に居た時に、何度か水族館に行ったことがあるらしいが、私と千秋は初めてであった。
そのためか、水族館の壮大な迫力に私と千秋は圧倒されていた。
そんな二人とは裏腹に、はしゃぎまくるふー。
「ねーねー見て! マンボウおっきい! イワシの群れ凄い!」
ふーの目はキラキラしていた。
「すごーい。マグロか? これ? 大きいな~」
そう私が呟くと、千秋が
「おっきいねー。おいしそう……」
と、言い出した。
それに続き私も
「なかなか脂のってそうで美味しそうだね~。何十万円するんだろう?」
と、現実的なことを言い、私と千秋はこのマグロはいくらするのかを議論し始めた。
それを聞いた川村先生が、
「いやいや、お前ら……。冬美みたいに『すごーい』とか子供らしい感想言えねーのかよ」
と、呆れ気味に話していた。
「だって、美味しそうだもん!」
と千秋が言い返すと、川村先生が、
「もう、それ以上言うな……」
と、呆れていた。
水族館のあとは、待ちに待ったテーマパーク。
ほぼ一日中遊んでいいとのことであった。
「じゃー、十八時からパレードが始まるから、それまで自由行動ねー。くれぐれも学生の自覚を持ってはっちゃけすぎないように」
「はーい!」
「先生は? 先生も一緒に周ろうよー!」
ふーが川村先生に言った。
「俺も一応一緒に周るよー。引率だからね」
「やったー!」
「さて、どこから行くー?」
千秋がテーマパークの地図を広げながら言った。
しかし、そんな必要はなかったようだ。
「ジェットコースター行こう! 次、水上アトラクション!」
ふーが地図を見ながら、次から次へと乗りたいアトラクションを喋ってきた。
「順番に一つずつ行こうよ。時間はたくさんあるし」
千秋が落ち着かせるようにふーに話しかけた。
有名なアトラクションには、片っ端から乗って楽しんだ。
こんなにはしゃいだことはない。
夢のような時間であった。
それは私達だけではない。
というのも、一番はしゃいでいたのは川村先生であったからだ。
思わず、私と千秋は「子供っぽい」と呟いてしまった。
どっちが生徒で先生なのか分からない。
「あー、遊んだ遊んだ!」
ふーは満足したようだ。
「次は夜のパレードだね」
「場所取りしようか」
川村先生が、会場まで誘導してくれた。
「そういや、私のお母さんが勤めてる会社の花火、パレード中に上がるかも」
私がそう呟くと千秋が思い出す。
「そういや、なっつのお母さん、花火工場で働いてるもんね」
「そうそう。何気に楽しみだったんだよねー。地元の花火大会で毎年見てるけどさー。でも、ここでしか上げない花火もあるらしいから楽しみなんだー」
そんなことを千秋と話していると、パレードが始まった。
ド迫力の音楽と演出に魅了された。
そして、ラストに母が作った花火が打ち上がった。
特別な思いでその花火を見上げていた。
ちょっと誇らしげに思った。
そう思っていると、あっという間にパレードが終わった。
「よし、んじゃー、ホテルに行きますか」
昨日まで泊まっていた所をチェックアウトし、修学旅行の最後の夜は、テーマパーク内の高級ホテルに泊まることになっている。
ホテルにチェックインし、部屋まで移動した。
部屋の前で川村先生からカードキーを渡された。
「これ失くすと大変だから大事にしてね。んじゃー、夕食まで部屋で休憩してくださーい。またねー」
と話し、川村先生は自分の部屋へ行った。
「じゃー、部屋に入るかー」
ふーがそう話し、カードキーを差し込み口に入れてドアノブを引いた。
しかし、ドアは開かなかった。
「あれー? 開かない」
「どれ、代わってー」
千秋が代わり、ドアを開けようとするも、
「ん? なんで?」
と、慌て始めた。
「私ら、廊下で寝るの?」
私がそう言うと、
「んなアホな!」
と、千秋とふーがツッコんできた。
何度もカードキーを差し込み口に抜き差しし、ドアを開けようとするも開くことはなかった。
「もう、川村先生呼ぼうか?」
私は携帯電話をカバンから取り出し、川村先生に携帯電話で連絡をとった。
「すみません。夏希です。カードキーの使い方が分からないので来てもらっていいですか?」
そう話し、電話を切るとすぐ駆けつけてくれた。
「あれー? カードキー初めて?」
「みんな初めてです! てか、あんなド田舎でカードキー使うホテルなんてありませんよ!」
呆れながら千秋が言った。
「ごめんごめん。これね、こうやって使うんだよ」
川村先生が慣れた手つきで、カードキーを使ってドアを開けてくれた。
「おー」
一同感心した。
「ありがとうございます!」
「いーえー」
やっと入れた。
さて、電気をつけよー。
……電源ってどこ?
「あれ? 真っ暗」
「どこ? 電気」
三人とも焦りだした。
電気のスイッチってないの!?
「また川村先生呼ぶわ」
私は再び川村先生を携帯電話で呼び出した。
まもなくすると、ノック音が聞こえた。
ドアを開けると、腹を抱えて笑っている川村先生が立っていた。
「お前達、本当に分かんねーんだな」
いやいや、バカにし過ぎでしょ。
てか、こんな高級ホテル、泊まったことあるわけねーだろ!?
部屋の鍵って言ったら、鍵穴に挿して回すあの鍵だろ!?
カードなんて予想外だよ!
「カードキーちょうだい」
ふーがカードキーを川村先生に手渡すと、川村先生は入り口の壁にある差し込み部にカードキーを挿した。
すると、電気がついた。
なんだろう……。
このなんとも言えない疲労感は……。
「あとは大丈夫?」
「はい、何度もすみませんでした」
「いーえー」
そう言って川村先生は部屋から出て行った。
「はぁ……。疲れた~」
そう言ってふーがベッドに倒れ込むと、体が大きく跳ね返った。
その瞬間、ふーは大爆笑。
「え! なに!? このふかふかベッド! 凄い! トランポリンみたい!」
そう言いながら、ベッドの上でトランポリンのようにジャンプし始めた。
その時の私達は、テンションが上がり過ぎていて、変にツボに入ったらしい。
三人とも笑い転げた。
しばらく笑った後、ベッドが二つしかないことに気づいた。
「あれ? ベットが二つしかない……。あと一人どこで寝るの?」
私がそう言うと、千秋とふーの笑い声がピタッと止まった。
「えっ!? もしかしてこれ!? 高級ホテルで折りたたみベッド!?」
ここでまた第二波の笑いが起きた。
笑いが収まると、次に誰がどのベッドで寝るか問題が出てきた。
「私、折りたたみが良い」
「え? うちも折りたたみが良い!」
「えー! あたしも折りたたみが良い!」
どう考えても、高級ホテルに泊まるのであれば、誰しもがふかふかベッドで寝たいのが当たり前なのに、みんな田舎丸出しだ。
「私、ベッドがふかふか過ぎて寝づらいから折りたたみのベッドの方が良い。家じゃー、畳に布団だもん! 違和感があってヤダ!」
「うちも! なっつと同じ理由だよ!」
「ふーは家でもベッドで寝ているから別にいいだろ!」
「えー、このベッド大きすぎる! こじんまり寝たいから、あたしも折りたたみベッドが良い!」
こんな話を川村先生に聞かれりゃー、がっかりするだろう。
せっかく浮いた旅費で高級ホテルを手配したかいが全くなくなってしまう。
「よし! 恨みっこなしのジャンケンで決めよー!」
千秋がそう言うと、
「異議なし!」
と、私とふーは賛成した。
「よし! いくよ! ジャ~ンケーン……ポイ! あいこでしょ! あいこでしょ! しょ! しょ! しょ! しょ!……」
「待て!」
私はストップをかけた。
このままじゃ決まらない……。
「もう一回最初から……。ジャ~ンケーン、ポイ!」
「しゃーっ!」
ジャンケンに勝ったのは、ふーだった。
私と千秋は、ふかふかのベッドで寝ることになった。
「ベッドも決まったし、夕食食べに行こー!」
「はいはい」
私達は夕食を食べに行った。
バイキング式の夕食を楽しみ、入浴後、再び部屋に戻ってきた。
三人ともドアの開け方はお手のものになった。
「明日は早いし、もう寝よー」
千秋が電気を消した。
「そうだねー。明日は帰る日かー。あっという間だったねー」
私はちょっと寂しかった。
まるで夢のような三泊四日であった。
「また三人でここに遊びに来よーよ! 同窓会としてさー!」
ふーが言い出した。
「絶対来よー! 約束!」
「うん!」
「おやすみー」
「おやすみー」
今日もたくさん遊んだ。
三人ともすぐに眠りについた。
そう思っていた……。
「ジェットコースター乗ろーよー、ジェットコースター……」
急に、ふーが片手を上げて寝言を言い始めた。
「また始まったよ……。てか、ほんとこのベッド寝づらい……」
千秋が文句を言い出した。
私も文句を言う。
「なんか、変に浮いてる感じがして寝づらいなー。でも仕方ないか」
「そうだけどさー。そのうち、寝ると思うけど」
「まぁーねー。おやすみー」
「おやすみー」
翌日。
「よし、帰るよー。あれ? 二人とも寝不足?」
明らかに眠そうな顔をしている私と千秋に川村先生が気づいて話しかけてきた。
「はい……。慣れないベッドと、ふーの寝言でなかなか眠れなくて……」
私がそう言うと川村先生は、
「新幹線の中では寝ていいから、それまで頑張って」
と、言ってくれた。
そのとおり、私と千秋は新幹線の中で寝てしまった。
ふーは、眠そうな様子は全くなく、とても元気だった。
「あ、二人の寝顔撮っちゃおーっと」
ふーが、私と千秋の寝顔をカメラで撮っていた。
「あ、オレもー」
川村先生もカメラをかまえて撮り始めた。
まもなく、地元に戻る……。
でも、また三人で東京に遊びに来ると約束した。
その日が来るのが今から楽しみだ。
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