第三話 PM16:00
「すみませんお待たせしました!」
「俺もちょうど来たところだったから大丈夫。それじゃ、行こうか」
待ち合わせの場所に先輩がいる。それだけで私はほっとして脱力しそうになってしまいます。学校の中で大きな事故が起こるとも思えませんが、それでも午後の授業を受けている時は心配でたまりませんでした。
「それで、今日はどこに行くんですか?」
歩道の車道側を歩きながら、私は先輩に尋ねます(この配置になるまでにひと悶着あったのですが、ここでは割愛します)。
「それなんだけど……」
先輩曰く最近駅前に出来たカフェでカップルフェアなるキャンペーンが行われているらしく、男女のペアで入店すれば普段よりスイーツの値段が安くなる上に、今日限定で新作ケーキの試食ができるのだとか……ってカップル⁉
「同級生だと塾の予定とかもあるしなかなか都合があわなくてさ。かといって後輩の知り合いがそんなにいるわけでもないし。今日サッカー部が休みでよかったよ」
ま、まぁそうですよねー。後輩の中だと一番覚えられているとポジティブに捉えるべきなのか、予定があえば他の人と行っていたのかとネガティブに捉えるべきなのか……。
「先輩ってスイーツとか好きだったんですね」
「男なのに変だって思うだろ? まぁ毎日勉強詰めってのも疲れるし、息抜きをしながら糖分もとれて一挙両得ってやつかな」
変だなんてとんでもない。むしろ部活の時のかっこいい姿とのギャップで、ますます好きになるじゃないですか!
(いやいや違う違う。浮かれている場合じゃないってば)
私の目的は、先輩にこれから降りかかる不幸を回避する事。私の予知能力、
一番ありそうなのが交通事故、次いで看板や花瓶のような人工物が落下してくる、変質者に襲われる可能性も十分にあります。地震や土砂崩れ等の災害なら他の人にも予知能力が反応するはずなので除外してもいいでしょう。
先輩に今日一日家から出ないよう忠告すればいいのでは?と思うかもしれませんが、そうもいかない事情があるのです。
運命の強制力。端的に言えば、人に与えられる幸福や不幸の総量はあらかじめ定められているという事です。たとえ予知によってある不幸Aを回避したとしても、回避したその先で不幸Aと同じ大きさの不幸Bにあってしまうと言った方が分かりやすいでしょうか。
たしかに先輩を外に出さなければ直近の不幸は回避する事ができるかもしれません。ですが結局は運命の強制力によって別の形で同じだけの不幸が降りかかってくるのです。
だからこその運命を変える能力
そのためには――。
「さっきからキョロキョロしているけど、何か探しているのか?」
「え、えっと……な、なんでもありませんよ! 楽しみすぎて落ち着かないだけです!」
(不幸の原因にいち早く気づいて、先輩を遠ざける……!)
駅に近づくにつれ車通りも段々多くなっていきます。上を見上げれば大看板がいくつも並び、道行く人の中には不自然な格好の人も増えてきました。不自然と言っても少し厚着だとか帽子を深くかぶっているとかその程度ですが、その油断がもしかしたら先輩を危険な目にあわせるかもしれないのです。
「おーここだここ。結構本格的な店っぽいな」
「そ、そうですね……」
さて、学校を出てから20分後。先輩がおしゃれな黒樫の看板に感心しているそばで、グロッキー状態の私はかすれた声で頷きました。神経を張り詰め続けるのってこんなに疲れるんですね……。気分的には地雷原かスラム街を通過してきた後です。
「いらっしゃいませー」
「2人でお願いします」
「それでは2名様ご案内します」
まぁ店の中までくれば心配は……。と、視界の端に見えたのはガラス張りの窓、そしてそのすぐ近くには車の駐車場。
「すみません、なるべく窓から離れた席でお願いします!」
どうやらゆっくりした食事は望むべくもないようです……。
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