第二話 PM13:02
「うぅ……」
さて、朝に2つの力で友人のピンチ(?)を救った私は、少し憂鬱な気分で昼ごはんのおにぎりを食べていました。
なぜかと言えば、昼休み前最後の授業でうたた寝をしているところを先生に見つかってしまったのです。それもすぐに嫌味を言うことで有名な先生に! あの時の恥ずかしさといったら、思い出すだけで耳が赤くなってしまいます。
(自分の不幸も予知できたらいいのになー……)
なぜか私の2つの能力―—
念のために言っておくと、この能力名は中学生の弟のノートから拝借したもので、私が考えたものじゃありません。……ほんとですよ? ほら、予知能力とか運命を変える力とかでもいいんですけど、やっぱり名前があった方がカッコいいじゃないですか!
まぁでもそんなことはいいんです。今日は多少の憂鬱くらいなら簡単に吹き飛ばせるような出来事が待っているんです!
「おーい、先輩が呼んでるぞ」
噂をすればなんとやら、同じ部活の男の子に呼ばれ廊下に出ると、そこには漫画本を両手に抱えた
「先輩! わざわざ届けに来てくれたんですか? 言ってくれれば私の方から受け取りに行ったのにー」
「そういうわけにもいかないだろ。借りたのはこっちなんだから、自分で返しにくるのは当然だ」
そう言って日下部先輩は歯を見せて笑います。漫画だったら確実にきらりと光が出てるシーンでしょうね。
日下部先輩は高校3年生で私がマネージャーをしているサッカー部の元エース、そして……私が絶賛片想い中の人です。
「あ、あそこにいるの日下部先輩じゃない?」
「ほんとだ。やっぱりかっこいいよねー」
でも、整った顔立ちで性格もいい、おまけに運動神経抜群の日下部先輩ともなれば当然ライバルも多いわけで。マネージャーとして多少関わりがあった分、他の女の子より少しは有利だと思うんですが、隠し持ってる能力以外全てが普通の私には厳しい勝負と言わざるを得ないでしょう……。
「今回のやつも面白かったな。これ最新刊っていつ出るんだっけ?」
「えっと、たしか来月だったはずです」
「じゃあそれは自分で買おっと。それ、他の奴にも薦めておいたんだけどさ、めちゃくちゃ面白いのになんで皆知らないんだろうな」
「そうなんですよね! 私、最初に読んだ時からずっとファンだったんですけど、周りに語れる人がいなくて……」
まぁ、先輩は受験生ですし、恋愛の事なんて考えている暇はないですよね。こうやって漫画の貸し借りをして他愛のない会話ができるだけで、今はいいかな。私がそう思っていたその時。
(―—―—―—っ⁉)
グサリと、胸を貫かれたような痛みが走りました。
(これ……⁉)
もちろん本当に何かが刺さったわけではありません。この唐突な痛みは、予知能力によるもので間違いありません。ですが私は、一瞬それが分かりませんでした。
今までに経験したことの無い、背中を貫通して胸まで届くような強い痛みが私を襲います。
「お、おい大丈夫か⁉」
ふらついた私を日下部先輩が支えてくれます。周りから冷たい視線が向けられた気がしましたが、今の私にそんなことを気にする余裕はありませんでした。
「あはは……ちょっと今日貧血気味で……」
「本当に大丈夫なのか。保健室とか……」
「もうなんともありませんよ。こんなのよくあることですし」
予知能力による痛みは数秒で無くなります。ですからその返事の半分は本当でした。
「ならいいんだが……。無理だけは絶対するなよ」
「はーい」
心配してくれる先輩に対して平静を装いながら、私は頬を伝う冷たい汗をぬぐいました。
前に言ったように、予知能力が発動する時、まずは背中の中心が少しの間痛み、それから不幸がある人の方へゆっくり痛みが移動していきます。
ですが今は違いました。痛みが移動したのは、痛みが消えるほんの一瞬前。私が左によろめいたのに合わせるよう、痛みは右側に移動しました。
痛みが消える直前まで移動しなかった理由、そんなの分かり切っています。不幸が訪れる対象が、私のちょうど目の前にいたから背中の中心から動かなかったのです。
つまり私が予知したのは、日下部先輩の不幸。それも朝のような軽い不幸ではありません。事故に遭って大怪我をする……いえ、それ以上の不幸が日下部先輩に迫っているのかもしれないのです。
「それで今日って部活はあるのか?」
「……」
「果実?」
「……あ、す、すいません! 部活ですよね。今日は先生の用事があるとかで休みです」
経験上、予知能力の精度は100%。このまま何もしなければ、確実に日下部先輩に何かが起こります。けど私ならそれを防ぐことができる。問題は、どうやって今日1日先輩と一緒にいるかです。先輩がまだ部活をやっている時ならまだしも、部活のマネージャー程度の関係の私が引退した先輩と1日いても不自然ではない状況なんてとっさには思いつきません。
しかし、救いの手は意外なところから差し伸べられました。
「あ、だったらさ、もし良ければなんだけど放課後ちょっと付き合ってくれないか?」
「放課後ですか? 全然大丈夫です! というかむしろ行きたいです! 行かせてください!」
詳しい話も聞かずにこんなに食いつくのは少し不自然だったでしょうか。ですがこんな僥倖逃すわけにはいきません。
先輩の不幸は、たとえ何があっても私が跳ね除けてみせます!
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