009 貴族令嬢は魔法使いの悪役令嬢だった
この大陸世界『アクシリンシ』には魔法がある。
一応は形態化された技術ではあるものの、それを使うには絶対的な条件がある。祖先にその条件を満たしている者がいれば、その子孫にも使える場合はあるにはあるが、少なくともユキやカナタ、ブッチには使えない。
しかし、シャルロットには使えた。
「【
打撃系火属性魔法【火炎・打撃】、シャルロットが最も得意とする魔法だ。
強化
「ほらほらかかって来なさいな~ほ~っほっほっ!」
「悪魔だっ! こいつは悪魔だっ!」
「衛兵でもここまでやらねえよっ!」
杖を振り回しながら、嬉々として盗賊共を追いかけていくシャルロット。
「元気だね~……若いな」
店先にもたれかかりながら、ブッチは
杖先に
かと言って剣を振り回そうにも、近づいた途端に燃やされてしまうだろう。
「ほらほら~(プスン)…………あ」
だが、その光景も長くは続かなかった。
熱気に
「【
どうやらもう使えないらしい。
原因については色々と思い当たることはあるが、今ここで問い質すわけにはいかない。
「…………ここは感謝、するべきかしらね」
「気にするな」
適当に手を撃ち抜いて最後の一人を無力化してから、ブッチは
「……素人ならそうと、最初に言っといてくれないか?」
「おかしいわね……」
盗賊達を換金し、無事支払いを済ませたシャルロットは、自分が何故魔法を使えなくなったのかを考えていた。
「【
どうやら一時的に使えなくなっていただけらしい。その様子に
「お前さん、もしかして……『刻印』で魔法を身につけたのか?」
「そうよ、それ以外に手があるの?」
シャルロットの
「まあ、血縁者にいなければそうなるわな。しかしよく見つけたな……」
「おっちゃん、どういうこと?」
頭に疑問符を浮かべるカナタに、ブッチは説明した。
「魔法が使える人間は二種類しかいない。
「痛そうな話やな……」
「人の身で超常の力を使おうとするんだ。それくらいの代償は払わなきゃならないんだよ」
実際、魔法を使えるようにするには、魂に干渉しなければならない。
その為には特殊な
「もっとも、魔法を継承した人間が増えすぎたせいでわざわざ
「『テミズレメ』からの逃亡者。こっそり逃がすことを条件に
「やっぱり国の管理以外じゃ、
そう言ってブッチは、カウンターに肘をついた。もしかしたら、魔法を使うことに対して、何か思うところがあるのかもしれない。
「おっちゃん、魔法使いたかったんやな……」
「
そう言ってホルスターの銃床を指で叩くブッチ。
「それより、その
「
「いますよね……やり方だけ覚えて、興味を持てない理屈は全無視な人」
ユキの瞳がある一点を見つめているが、その先にいる人物は我関せずと店の床を掃除している。
「お陰で
興味のあることしか覚えない。人間なんてそんなものだろう。
「まったく……火薬は作れる癖に」
小声であることも含めて、言っても仕方ないと考えたのか、ユキは淹れたてのコーヒーをブッチ達に振る舞った。
「お
「カウンターの中、だから仕事中は遠慮しろっての」
それでも準備はしてあるという用意の良さに、ブッチはふとあることを思った。
「……なあ、お前等双子だったよな?」
「そうですよ」
しかしブッチが話を続けようとするものの、ユキは先にシャルロットの方に近づいて行った。
「ところで話が途中でしたけど、これからどうするんですか?」
「ふっ……決まっているわ」
シャルロットは立ち上がると、杖を高々と
「革命軍を立ち上げて、王位を
実に力強い発言だが、周囲の視線はどこか冷たげだった。
「……お客さん、テーブルの上に足を載せるのはやめて下さい」
「…………」
ユキの言葉に静々と、シャルロットは足を降ろした。
「まあ、『ヤズ』を乗っ取るよりかは成功する可能性はありますけど……別に革命する程じゃないでしょう、『
「今は、ね……」
シャルロットはどこか歯切れ悪く、そう告げた。
「王はともかく、元婚約者でもある王子の方は、上に立つ器じゃないわ。王となる為の教育は受けていたけど、教えられたこと
「……ゆとり?」
カナタの声に、シャルロットは思わず振り向いた。
「あなた……ゆとり教育とかって分かるの?」
「他にも土日休みとか?」
ブッチは首を
「……あなた達
「正確にはお
カナタは気楽そうに告げるが、ユキは
「シャルでいいわよ。親しい者からはそう呼ばれているから」
「うちはカナタや、よろしゅうな」
女同士、気が合ったのだろう。
きっかけはともかく、同郷意識からか二人は意気投合したらしい。後は時が二人の絆を
「革命の話はどうなったのやら……」
「まあいいじゃねえか、置いといてやんな」
腰に手を当てて溜息を
「ただ……あまり転生者だの転移者だのは言いふらさない方がいいぞ」
「分かっています。二人には後で言い含めておきますよ」
もしここが地球であれば、頭のおかしな妄想ととられるだけで話は終わるだろう。それを隠し通して生きるのも、転移や転生による知識や能力を活かして生きるのも、当人達の自由だ。
だが、この世界は違う。
そして……その利用方法も。
「こんばんは……っと、今夜は賑やかだな」
「いらっしゃい。まあちょっとな」
余計なことを漏らす前に、とユキは夕食を
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