第9話 浅茅生の...(一)

 相変わらず暑い。


 じいちゃんの家は古い造りなんで、縁側の戸を開け放して風が入るようにしてあるんだけど、それでも暑い。


 今日は特に風が無いから、服がべったり貼り付くようだ。


 俺は水本と#牛頭__赤__#さん、#馬頭__青__#さんと、追試に向けて特訓中。


......にしても、よくよく思うんだけど、


「恋の歌、多いよな。和歌って......みんな、そんなに暇だったのかな」


 #馬頭__青__#さん、思わず苦笑い。


「暇な訳じゃありませんよ。見たでしょ?恋とは、状況に関わらずしてしまうもんなんですよ」


「そうそう、戦国武将なんて暇な訳ないじゃん」


 水本が大きく頷く。佐竹氏やら奥州の合戦年表見せられて唸る俺。びっちりじゃん。しかも一年の間にあっちだのこっちだの。超ご多忙。


「まぁ、文字摺の方とか蘆名公はあまり問題無い方々なんですよ」


 まぁね、両想いだし。

 でもホント昔は遠距離恋愛は大変だな。ライン無いし、新幹線も飛行機も無い。会うの大変だよな。


「でも、人の思いは恋愛だけじゃないですからね。親子の情愛を詠んでたりするのを、後の人が恋愛に解釈してるだけかもしれません」


 ふぅ~ん。ま、三十一文字しかないもんね。


「いずれにしても、人の思いだからな」


と#牛頭__赤__#さん。ちょっと遠い目。なんか地獄で色々見てるんだろうな。深いわ。

 麦茶、お代わりちょうだい。


 というところでスマホが鳴った。発信を見ると見慣れない番号。とりあえず出る。


「もしもし......」


『あ、小野君?......教務の菅原だけど、篠原君、そっち行ってないか?』


 あ、ガッコの先生でした。怖~い風紀の菅原先生。担当は倫理社会。らしすぎる。


「来てませんよ。なんかあったんですか?」


『家に帰って無いんだそうだ。お母さんから電話があった』


 家に帰って無いって......ふぃっと時計を見るともう十一時、夜中です。都会と違ってド田舎のここじゃ、十一時なんて真っ暗。どこの店も開いてない。マクドなんかも無いし。


「街場行って、帰れなくなってんじゃないすか?」


 あり得る。駅で夜明かし。


『篠原君は真面目な子だ。連絡くらいするはずだ』


あ、スマホ持ってるよね?普通。篠原、女の子だし。ヤバくね?


『クラスの連中と肝試し行くって言ってたらしい。......心当たりないか?』


 肝試しって.....この辺、夜遅く歩くのって、まんま肝試しだけど。


「あ、黒塚!」


 水本が叫ぶ。安達ヶ原の鬼婆ってヤツ?あれ、伝説でしょ。


「そうとも言えんぞ。......#牛頭__赤__#車出せ!二本松だ」


 あれ?どっから現れたの?#小野崎先生__ごせんぞさま__#。


 なんかヤバい案件?行ってらっしゃい。


「お前も来い!#馬頭__青__#もだ」


 なんで?あ、人手いるか、救出係。怖いんだけど......。


「僕も行きます!」


て、水本。お前、怖いもん知らないね。

 うん、とか頷かないの、先生。顔がマジ過ぎて怖い。


「早くしろ!」


 あれ?#平野先生__まさかどさん__#もなの?仲良しだね。

デッカいランクル、似合ってますね。

......て、言ってる間もなく、車に引き摺り込まれる俺たち。

 戸締まりは~?


「済ませました」


って#馬頭__青__#さん、そこでファンタジーしなくていいからあぁ~!





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